「ZOLA  ゾラ」のジャニクサ・ブラボー監督© Pat Martin

「ZOLA  ゾラ」のジャニクサ・ブラボー監督© Pat Martin

2022.8.25

インタビュー:男性目線から女性を解放 ツイッター原作のきらびやかな悪夢 「ZOLA」ジャニクサ・ブラボー監督

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

勝田友巳

勝田友巳

「ZOLA」のジャニクサ・ブラボー監督は、原作となったツイッターのつぶやきに強烈に引きつけられた。映画化への強い思いを持ち続け、6年かけて実現。主人公ゾラが放り込まれた悪夢的状況を、同じ黒人女性のブラボー監督は、ユーモアと妖しく魅惑的な世界へと変貌させた。
 

 

19歳女性が実体験つぶやき 争奪戦も諦めず

19歳の女性アザイア・キングが、2015年に実体験をつづった一連のツイッターが原作。ブラボー監督は途中まで読んだところで「映画化したい」とマネジャーに連絡。しかしキングのつぶやきは、既に映画化権の取り合いになっていた。
 
「つぶやきには独特の『声』がありました。エキセントリックでエキサイティングだった。読みながらどんどん映像が浮かんできたし、音楽も。私は映画になるかどうか、感覚的に分かるんです。そして、彼女を守れるのは私だけだと、責任を感じてしまったんです」
 
とはいえ当時は長編デビュー前、お金もない。やがて別の監督での映画化が決まったと発表される。「それでも、そちらがダメになったら私がいると覚えておいて」とプロデューサーに念を押す。「お金はなかったけど、絶対に完成させるという意志は強かった。墓に入るまではあきらめないと」


 

ユーモアでつづる恐怖の旅路

待てば海路か一念が岩を通したか、17年、その監督が降りたと情報が届く。すぐさま手を挙げ、ついに権利を獲得した。この時にはデビュー長編「レモン」が業界で話題となっていたし、映画化権を持っていたのは「レモン」の製作会社キラーフィルムズだった。
 
物語の主人公ゾラは、デトロイトに住む黒人のポールダンサー。偶然知り合って意気投合した白人ダンサーのステファニから、フロリダならダンスでもっと稼げると誘われる。怪しげな黒人X、ステファニの恋人デレクの4人で、車に乗って出発した。ところが、暴力的なXが一行を支配していることが分かり、ゾラはステファニと共に売春を強要される。恐怖の旅路だが、映画はにぎやかな色彩で、とぼけたユーモアが満載だ。
 
「そのユーモアがあったからこそ、ぜひやりたかった。私は自分のことを、〝ストレスコメディー〟の監督と思っています。キングのツイッターの文章をいくつか読んで、私とゾラは似ていると感じたんです。気まずい瞬間や嫌な出来事を、ユーモアを武器にしてやり過ごすところが」

 

ゾラは観客の延長 別世界は隣にある

実はブラボー監督が関わる前、別の脚本ができていた。権利を獲得してから女性目線で書き換えたという。この映画を「白人の女性が黒人の友人を誘惑して、思ってもいない世界に連れて行く話」と説明するが、同時に「米国の現実の、思い切った窓にしたかった」とも話す。
 
ステファニが自ら進んで売春する一方、ゾラは激しく抵抗する。Xによって強引に客の前に引き出されて、おびえながらも冷静さを失わず、客観的に状況を見つめている。
 
「観客は、ゾラを自分の延長と思うのではないかな。他の登場人物は誇張したり極端だったりと道化的だけど、ゾラはリアルで理性的。描かれる出来事は観客にとって別世界のようでも、ゾラの存在によってそれが現実だと気付くことになるのです」
 
そしてゾラは、ステファニを搾取するXに憤る。ステファニに自分をもっと高く売れとけしかけて自ら〝営業〟し、男どもから荒稼ぎ。売春は男性による性の商品化、という通念に、肉体と性を取り戻した女性が反撃するのである。
 

攻守変えたベッドシーン

ブラボー監督は「ステファニが売春するベッドシーンでは、男性支配をひっくり返した」と語る。「セックスは普通、女性が裸体をさらしてもろさを見せる行為として描写されるけれど、この映画では脱ぐのは男性で、女性は脱がない。体を売っている女性が、男性を支配しているんです」
 
女優の裸体を求める男性目線への逆襲は、ステファニを演じたライリー・キーオを守るためでもあった。「友人の女優をネットで検索すると、最初に彼女のヌードが出てくる。他の映画にたくさん出て活躍しているのに。ネット検索が多いということで、そのイメージばかり強固になる。この映画で、ライリーをそんなふうにしたくなかった」
 
ゾラは暴力や支配に屈服せず、自由と主体性を守り抜く。きらびやかな映像で描かれるその世界は「おかしくて魅力的、でも危険」。オンライン画面の向こうで語るブラボー監督からは、その作品と同様、高い熱量が伝わってきた。
 
8月26日公開。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。