第76回カンヌ国際映画祭で「パーフェクトデイズ」記者会見に臨む(左から)役所広司、ビム・ベンダース監督、中野有紗=2023年5月26日、勝田友巳撮影

第76回カンヌ国際映画祭で「パーフェクトデイズ」記者会見に臨む(左から)役所広司、ビム・ベンダース監督、中野有紗=2023年5月26日、勝田友巳撮影

2023.5.27

「物欲なく日々を幸せに生きる主人公、うらやましい」役所広司 カンヌ国際映画祭「パーフェクトデイズ」記者会見

第76回カンヌ国際映画祭が、5月16日から27日まで開催されます。パルムドールを競うコンペティション部門には、日本から是枝裕和監督の「怪物」、ドイツのビム・ベンダース監督が日本で撮影し役所広司が主演した「パーフェクトデイズ」が出品され、賞の行方がきになるところ。北野武監督の「首」も「カンヌ・プレミア」部門で上映されるなど、日本関連の作品が注目を集めそう。ひとシネマでは、映画界最大のお祭りを、編集長の勝田友巳が現地からリポートします。

勝田友巳

勝田友巳

第76回カンヌ国際映画祭で26日、コンペティション部門に出品された「パーフェクトデイズ」の記者会見が開かれた。ビム・ベンダース監督、主演の役所広司、中野有紗、高崎卓馬プロデューサーが登壇。ベンダース監督は「公共トイレ清掃員を演じるために、自ら清掃員の仕事を体験していた」とその献身ぶりに驚いていた。
 

公共トイレを通し今の東京を撮る

「パーフェクトデイズ」は、東京の下町に住み、公共トイレの清掃員として働く主人公・平山の日常と出会いを静かに描いた作品。渋谷区の公共トイレを改修する「THE TOKYO TOILETプロジェクト」の一環として製作された。
 
企画についてベンダース監督は「改修したトイレを見に来て、インスピレーションを受けたら写真でも短編でも作ってくれないかと東京に招待された。喜んで東京を訪れ、トイレが登場するがトイレの物語ではないフィクションを作ることになった。東京の今を撮りたいと思った」と説明した。
 

東京で小津を感じる

役所は映画について「謎の多い脚本だった。平山の住む場所や収入などは準備されて分かったので、彼が使うはさみや歯磨きなどから平山が僕の中に忍び込んでくれた。最低限のお金で物欲もなく、好きな音楽と本を味わい静かに眠る。うらやましいし平和。彼のような人間が増えると、世界はもっといい方に向かう気がする」と話した。
 
ベンダース監督は「撮影は3週間。とても早く、熱烈な(Fast and Furious=人気アクション映画「ワイルド・スピード」の原題)撮影だった」とジョークをまじえて解説。「平山は謙虚でシンプルで、スピリチュアルな人物。人生を選択し、幸せに生きている。役所さんがカメラの前に立つと平山が成長し、膨らんでいった。彼はこちらからの指示ではなく、みずから清掃員の仕事を調べ、体験していた。リハーサルもほとんどしなかったが、彼も必要としていないと感じていた」と役所を絶賛していた。
 
敬愛する小津安二郎監督の影響について聞かれ「小津は心の師であり、東京で撮影して小津を感じないことはない。この作品では特に、モダンで大胆な女性は小津的だ。小津の死の60年後に東京で撮影するのは特別な体験だった。細部に目を向けて日本社会の変化を描いた小津を引き継いだ」と話した。
 

「平山に会いに行こう」が合言葉

平山のめいニコを演じた中野は「監督が自然な流れを作ってくれ、『ニコを演じる』というより『ニコになる』という感じだった」と撮影を振り返った。ベンダース監督と二人三脚で脚本作りにあたったという高崎は「監督とは『平山に会いに行こう』が合言葉だった。平山を存在する人物として観察し、フィクションをドキュメンタリーのように撮影していった」と明かした。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。