1960年代、日本は、東京オリンピックや大阪万博など高度経済成長に沸いていた。国際化に向け売春の取り締まりが強化され、性別適合手術を受けた通称ブルーボーイたちを一掃して街を浄化するため、検察は手術を行った医師を逮捕する。その手術の違法性を問う裁判には、実際に手術を受けた証人たちが出廷したという。本作は、この実際に起きた〝ブルーボーイ事件〟を下敷きに、自らの尊厳と誇りをかけて司法や世間と闘った彼女たちの声を掬い上げた社会派エンターテインメント。「僕らの未来」（2011年）や「フタリノセカイ」（22年）、「世界は僕らに気づかない」（23年）など、トランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した作品作りで注目される飯塚花笑監督が、オリジナル作品として完成させた。

裁判の証人となる主人公のサチ役は、トランスジェンダー女性たちによるオーディションで選ばれたドキュメンタリー映画「女になる」（17年）に出演経験のある中川未悠。サチのかつての同僚たちを演じるのは、映画初出演となるドラァグクイーンのイズミ・セクシーと、シンガーソングライターで俳優の中村中。またブルーボーイ役として真田怜臣、六川裕史、泰平ら、注目の若手俳優たちが出演する。サチに証言を依頼する弁護士の狩野役を錦戸亮。彼と敵対する検事役を安井順平が演じるほか、前原滉や山中崇ら実力派俳優たちが共演する。

1965年、オリンピック景気に沸く東京で、街の浄化を目指す警察は、街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていた。ただし、性別適合手術（当時の呼称は性転換手術）を受け、女性として売春をするブルーボーイと呼ばれる彼女たちは、戸籍は男性のため売春防止法の摘発対象にならず、警察は頭を悩ませていた。そこで彼らが目をつけたのが性別適合手術だった。警察は、生殖を不能にする手術は「優生保護法」（※現在は母体保護法に改正）に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を行っていた医師の赤城（山中崇）を逮捕する。同じ頃、東京の喫茶店でウェイトレスとして働くサチ（中川未悠）は、恋人の若村（前原滉）からプロポーズを受け、幸せを噛み締めていた。そんなある日、弁護士の狩野（錦戸亮）がサチのもとを訪れる。実はサチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとりだったのだ。赤城の弁護を引き受けた狩野は、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。

公開：2025年秋