特選掘り出し!:「モルエラニの霧の中」 巡る季節、呼び起こす記憶
「モルエラニ」はアイヌの言葉で「小さな坂道を下りた所」の意味で、「室蘭」の語源の一つとか。北海道・室蘭の人々を淡い筆致で描く、全7話のオムニバス。前後編で3時間34分と長尺ながら、その時間が確かに必要だったと感じさせる、深い味わいである。 四季を追いながら語られる物語は、不確かで幻想的だ。例えば第2話「名残りの花」。季節は春。写真館主の幹夫(大杉漣)が倒れ、息子の真太(河合龍之介)が久しぶりに帰郷する。真太は古い写真を見つけて持ち主に配り、幹夫が毎年肖像写真を撮り続ける蕗子(香川京子)と出会う。わけありげな父子の関係はつまびらかにされず、蕗子の素性も明かされない。幹夫が愛用した古い写真機や蓄...