第76回毎日映画コンクール 大藤信郎賞「プックラポッタと森の時間」八代健志監督

第76回毎日映画コンクール 大藤信郎賞「プックラポッタと森の時間」八代健志監督

2022.2.24

大藤信郎賞 「プックラポッタと森の時間」八代健志 コロナ禍が生んだ驚異の映像

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

〝オールロケ人形アニメ〟在宅勤務で不可能が可能に


愛らしい造形の人形が、ちょっとたどたどしく、それでも生き生きと動き回る人形アニメ。見ているとあっという間だが、作るには膨大な手間と時間がかかる。人形を少しずつ動かしながら一コマずつ撮影し、1日かけて数秒分。光の条件が刻々と変わる屋外での撮影などもってのほかと思っていたが、毎日映画コンクール・大藤信郎賞の「プックラポッタと森の時間」は、自然の森の中で撮ったオールロケ人形アニメ。八代健志監督が不可能に挑んだのは、コロナ禍のせいだった。
 

プックラポッタと森の時間 ホームページ


八代監督は施設映像などの人形アニメを製作してきたが、自然の中で作れないかと思案していた。しかし当然ながら、予算と期日が決まった仕事では難しい。2020年春、コロナ感染が広がり出社できなくなりそうだという状況で、「試してみたい筆頭テーマ」が浮上する。長野・軽井沢の自宅に人形と機材を持ち込んで、在宅期間中に実験的に製作を開始。はじめは短いカットで満足していたが、コロナ禍が長引くにつれて、構想が膨らんでいく。

「最初は1カットずつ、森の中をこびとが走る場面を撮っていたんです。そのうち人間が入り込む画(え)も撮ろうと。コマ撮りの人形アニメと生身の人間が同時に画面にいて、感情移入できるか。自分で演じて撮ってみた」
 

森のこびとの観察記録

 手応えを感じてプロデューサーに相談し、在宅業務として本格的に取り組むことになる。雪景色から春、そして梅雨を迎える自然の中で撮影を進め、そのうち仕事が戻って真夏の東京都内でロケ撮影。一巡りする四季の中で、森のこびとを追いかけた。16分の作品は、語り手の「私」による、森のこびと、プックラポッタの観察記録だ。
 
「計画があって作ったのではなく、コロナ禍で急に思いついて始めたら、在宅勤務が長引いていく。先の予測ができず、他の仕事は止まったままという中でちょっとずつ作っていました。成り行き任せの自由さで、季節の流れとか天気と相談しながら。コロナの状況がないとできない、技術の実験だった。幸せな時間でした」
 
自宅の周囲の森の景色や季節の移り変わりを、丹念に切り取った。林を野原を、こびとが走り回り、花開くつぼみによりそいセミの脱皮を見つめている。驚くべき映像が、選考委員をうならせた。「セミの羽化は、どのあたりでたくさん羽化するか調べておいて、夕方、これはという幼虫に目星を付けて、夜中に撮影します。早い時間に機材をセットしたら、いざ撮影の時には移動してたり、何割かは途中で力尽きて死んじゃったりと、何回か挑戦しました」。庭の小屋に機材と寝袋を持ち込んで泊まり込んだという。
 


ゆっくりとした時間軸で五感を働かせる快感

 プックラポッタが木立の間を走り抜ける数秒の間に、木々の影は素早く移動していく。わたしたちの日常と地続きなのに、目にすることができない不思議な、そして美しい光景が展開する。「太陽の動きは一定だから、光の動きは計算できるんですが、雲のムラがあると、わずかに明るくなったり暗くなったりする。光のバラバラ感がどのぐらいがいいのか、撮影する中で感覚的に分かってきた。普段の映像の仕事とは違う、五感を働かせる快感を知ることができました。失敗が許される遅さで撮れたのがよかった。普段とは別の、違う時間軸で動いていたと思う」
 
こびとが草原の中を行く場面では、数十㍍離れた人形とカメラの間を何十回も走って往復した。隠れる場所も手伝う人もなく、太陽と競争しながら大忙しである。「健康的でしたよ」と笑ったが、はたから見れば大変な根気と熱意に敬服するしかない。自身はプックラポッタに流れるゆっくりとした時間を楽しみ、通常の仕事に戻るのが残念だったとか。ラストシーンはそんな気分を反映してか、ちょっと寂しい。「機会があれば、違う季節でとか、いろいろやってみたいです」。プックラポッタとの再会が待ち遠しい。

©TAIYO KIKAKU Co., Ltd./TECARAT

プックラポッタと森の時間

世界中が自宅待機を余儀なくされていたあの年の春、都会への通勤をやめていた「私」は、身長15センチほどのこびとの存在に気付く。「私」はこびとをプックラポッタと名付け、観察を始めた。

©TAIYO KIKAKU Co., Ltd./TECARAT

製作年 : 2020

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部

カメラマン
ひとしねま

宮武祐希

毎日新聞写真部カメラマン