第76回毎日映画コンクール男優主演賞 佐藤健

第76回毎日映画コンクール男優主演賞 佐藤健

2022.2.14

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」 クールな中に真摯さにじませ 演技では負けない

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

勝田友巳

勝田友巳

「受賞は作品 俳優の力はちっぽけ」

「護られなかった者たちへ」(瀬々敬久監督)で、激しい思いを秘めた主人公を演じ、高く評価された。「仮面ライダー電王」で注目されてから15年。アクション、ラブストーリー、シリアスドラマと演技の幅を広げ、2021年は「るろうに剣心 最終章」2部作で、10年越しのアクション時代劇シリーズが完結した。大活躍の年での受賞だが、インタビューではクールな受け答え。とはいえその中にも、演技への真摯(しんし)な姿勢をにじませた。



チームプレーの中に役割

「演技賞は、演技を評価するっていいますけど、絶対、作品を評価してると思ってます」。受賞の知らせにも、どこか素っ気ない。俳優は作品の一部と冷静に受け止めている。

「どんなに良い演技してても、作品が良くないと演技も良く見えないんですよね。俳優の側からすると、作品は目立たなくても、すげえ芝居してんな、という人が選ばれたのは見たことないです。逆に普通にしてても、作品が素晴らしかったら選ばれる。そういうことだなと思ってます。俳優が一人で頑張ったところでちっぽけなものだし、作品はチームプレーで、その中での役割があるんでしょうね」

「るろうに剣心 最終章」の激しい殺陣と「護られなかった者たちへ」での人間ドラマ、対極的な作品でともに好演。選考会では「演技が一段上がった」と高く評価された。
と伝えても「ほんとですか、そんなことないんですけどね」。「謙遜でもなんでもなくて、作品の力、監督の、スタッフの力だと思っています」と謙虚に繰り返す。

映画化する意義がある 震災後の現実知ってほしい

「護られなかった者たちへ」では、寡黙な青年、利根を演じた。東日本大震災から10年後の仙台が舞台。福祉保健事務所の職員が相次いで殺害され、その容疑者として利根が浮上する。猟奇的な連続殺人事件のナゾを追うミステリーだが、背景には震災の傷痕と、生活保護行政を巡る問題が横たわっている。

原作となった中山七里の小説を読み「映画化する意義のある作品だと思った」という。「震災の被害はみんな知っていても、そこから波及していろんな問題が今でもはびこっています。自分も生活保護の実情を詳しく知らなくて、考えるきっかけになりました。映画化するんだったらかかわりたい、現実を知ってほしいと思ったんです」

利根は当初は心を閉ざし、周囲に鋭い目を向けている。しかし震災の避難所で、身寄りをなくした少女カンちゃん、1人暮らしのけいと出会い、肩を寄せ合って暮らし始めると、次第に表情が和らいでいく。

「利根はまっすぐ、自分の正義を信じて突っ走ってると思うんです。不器用だけど一本筋が通ってて、エネルギー量も『高い』。世間からはあんまり仲良くなりたくないと思われるけれど、愛した人を大事にするエネルギー量も当然『高い』から、親しい人には信頼される。そういう人にしたかったんです。(目つきや表情の変化は)意識してないですが、結果的にそれなら悪くないですね」

「演じてる僕としては、『マジあいつらむかつく』っていうスタンスですけど、映画全体で見れば、悪いのは誰なんだって考えさせます。僕は利根の怒りとかやるせなさみたいな感情を観客と共有して、ぶつけてくことが使命だと思いました」。「るろうに剣心」ではワイヤにつられた過酷な撮影を経験していたから「あれに比べたら絶対、今回は楽だろうと思ってたんですけど、始まったら思った以上に大変で疲れました。精神的にも体力的にも」。映画を支える大役をまっとうした。

© 2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

気合入ってると思われたい

共演の清原果耶も、同じ作品で毎日映コンの女優助演賞を受賞した。「素晴らしかったですよ」と称賛を惜しまない。特にクライマックスで、清原の熱演を間近に見た。「気合入ってました。1回良い芝居をするのは天性とか才能でできるんですけど、何回もとなると、気合と根性なんですよ。彼女は、最後まで負けずにやってました。とても10代には見えない。自分も改めて、気合を入れ直さないとなと」

娯楽大作から社会派まで、映画にドラマに、バラエティーでも活躍。30歳を過ぎていっそうの充実ぶり。役に向かう原動力はどこに?

「うーん、結論は『分からない』ですけど、基本、負けず嫌いです。本業は役者業だと思っているので、そこでは負けたくないですね。だから、変な作品でぬるい芝居してるのを見られたり、そう思われたりするのはいやなんです。あの人、良い作品出てるよね、気合入ってるよねと思われたい。そこでなめられたくないし、負けたくないっていう、一種のみえみたいなものが、モチベーションになっています。作品に貢献したと思えたら満たされるし、恥ずかしくない。でも、面白いものを作りたいという欲の方が強いかもしれない。自分の満足感を大事にしたい」

大活躍で、満足感も大きいのでは? 「そんなには、ないです。もっといいもの作れると思うし、作らないといけない」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン