カプリコン・1(C) Capricorn One Associates 1978

カプリコン・1(C) Capricorn One Associates 1978

2022.2.15

謎とスリルのアンソロジー 「カプリコン・1」

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

火星探査映像捏造を暴け 宇宙飛行士と記者の抵抗


キーワード「国家の陰謀」


アルフレッド・ヒチコックの代表作「北北西に進路を取れ」(1959年)がそうであるように、多くのスリラー映画はごく平凡な主人公が恐ろしい陰謀に巻き込まれるところから物語が動き出す。主人公は必死の抵抗を繰り広げ、かつての日常を取り戻そうと奮闘するが、もしも敵が国家のような巨大権力だったら勝ち目はほとんどない。「カプリコン・1」(77年)の主人公ブルーベイカーの場合もまさにそうだった。
 
人類初の有人火星探査船カプリコン・1の発射直前、船長のブルーベイカー(ジェームズ・ブローリン)ら3人の乗組員が突然降ろされ、砂漠の軍事基地に連れて行かれる。米航空宇宙局(NASA)の責任者ケラウェイ(ハル・ホルブルック)の説明は信じがたいものだった。探査船のシステムに致命的な不具合が見つかったため、カプリコン・1は無人のまま打ち上げる。そしてブルーベイカーらには基地内に用意した撮影用セットで火星に降り立つ場面を演じさせ、その映像を世界中に生中継するというのだ。家族を人質に取られた3人は、やむなく指示に従うのだが……。
 
昨今は米オンライン通販大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが宇宙旅行の夢をかなえるなど、民間企業の宇宙ビジネスが盛んになっているが、人類の宇宙開発史には根強い陰謀論が存在する。「アポロ計画の月面着陸はウソだった」。有名なアポロ11号の月面着陸映像は、あのスタンリー・キューブリックが撮ったという都市伝説もまことしやかにささやかれている。
 
(C) Capricorn One Associates 1978

ウォーターゲート事件後の政治不信を追い風に企画が実現

「カプリコン・1」を手がけたピーター・ハイアムズは、監督デビューの前、放送局で働いていた時期に本作のアイデアを思いついた。彼が書いた脚本はしばらく日の目を見なかったが、74年にリチャード・ニクソン大統領がウォーターゲート事件で辞任。全米で政治不信が高まった世相が追い風となり、この国家的陰謀を扱ったポリティカルスリラーの企画が実現した。
 
陰謀というのは、一部の悪人によってひそかに進められるのが常だ。本作の大統領をも欺こうとする火星探査〝捏造(ねつぞう)〟計画では、前述した悪役ケラウェイの背後に、軍や捜査機関さえも操る闇の勢力の存在がほのめかされる。ケラウェイに脅迫されて基地に監禁されたブルーベイカーらの苦悩を描く前半は密室的な謀略スリラーなのだが、身の危険を察知した宇宙飛行士3人が逃走する中盤で映画のトーンが一変する。基地の閉塞(へいそく)空間から果てしなく広大な砂漠へと舞台を移し、ダイナミックなサバイバルアクションに転じるのだ!
 
また、本作にはもうひとりの主人公がいる。NASAの陰謀の匂いを嗅ぎつけた新聞記者コールフィールド(エリオット・グールド)だ。ケラウェイが放った刺客に追われるブルーベイカーらの逃亡劇と、わずかな手がかりをたどって真相に迫っていくコールフィールドの粘り強い取材。並行して語られるふたつのストーリーが、ついに砂漠のガソリンスタンドで結びつく終盤のシークエンスには手に汗握らずにいられない。
 
そのほかにもコールフィールドが暗殺されかける車の暴走シーンなど、あらゆる見せ場に異様な迫力がみなぎっている。とりわけテレビシリーズ「刑事コジャック」で人気を博したテリー・サバラスが、農薬散布会社の社長役で唐突に絡んでくるクライマックスのスカイアクションがすごい。地面や断崖絶壁すれすれの仰天ショットが連ねられる臨場感たるや尋常ではなく、コンピューターグラフィックス(CG)のない時代にどうやって撮ったのかわからないほどアクロバティックだ。砂漠で宇宙飛行士たちを執拗(しつよう)に追いつめる2機の黒いヘリコプターを、不気味な昆虫のように表現した描写も他ではお目にかかれない。
 

スリリング、豪快、感動的 政治スリラーをエンタメに

本作はハリウッド・メジャーではなく、イギリスのITCエンターテインメントが製作した独立系作品だが、「JAWS/ジョーズ」(75年)の撮影監督ビル・バトラー、「オーメン」(76年)でアカデミー賞作曲賞を受賞したジェリー・ゴールドスミスらの一流スタッフが参加。むろんハイアムズの演出もさえ渡り、のちに「2010年」(84年)、「カナディアン・エクスプレス」(90年)などを手がける職人監督の出世作となった。
 
70年代のアメリカ映画は「パララックス・ビュー」(74年)、「コンドル」(75年)、「大統領の陰謀」(76年)など時代の混迷を反映した陰謀スリラーが花盛りだったが、それらよりはるかに奇抜なアプローチで「権力を疑え!」というメッセージを観客に投げつけてくる「カプリコン・1」は、現代にも通じるフィクション/娯楽映画の大いなる可能性を示している。とかく真面目なリアル志向の作風で描かれがちな国家権力の隠蔽(いんぺい)、腐敗というテーマは、こんなにもスリリングで、豪快で、感動的なエンターテインメントの題材になりうるのだということを。


「カプリコン・1」ブルーレイがキングレコードから発売中。2750円。

カプリコン・1

人類初の有人火星探査宇宙船カプリコン・1が発射不能になり、船長ブルーベイカーらは、NASAから火星着陸映像の捏造を命じられる。砂漠の基地内で撮影された映像が生中継されるが、カプリコン・1は地球再突入に失敗。ブルーベイカーらは命の危険を感じて基地を脱出する。一方新聞記者のコールフィールドは、NASAの不審な動きを嗅ぎつけた。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。