私はいったい、なにと闘っているのか ©2021 つぶやきシロ―・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会

私はいったい、なにと闘っているのか ©2021 つぶやきシロ―・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会

2021.12.16

私はいったい、何と闘っているのか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

春男(安田顕)は地元密着型のスーパー「ウメヤ」の万年主任。信頼する店長が急死し、職場や家庭から次の店長と期待されるが、本部から年下のさえない新店長が来てがっかり。店員が商品を盗み、長女(岡田結実)に恋人ができ、憎めないお父さんが一喜一憂するコメディーだ。

つぶやきシローの同名小説の映画化。正直者でお人よし、うまく立ち回るのが不得手な中年男性を安田がユーモアと哀愁を交えて好演。世のお父さん方が「あるある」とうなずきそうな空回りのエピソードが笑いと共感を誘う。ただ、春男は店でも家庭でも脳内の妄想がさく裂。モノローグが多すぎて、うっとうしく感じるほどだ。後半は昇進をめぐるドタバタから一転、娘2人を中心に家族へフォーカス。娘との沖縄旅行に取って付けたようなお話を加えて、涙腺を刺激する展開にいささか興ざめした。食堂のとぼけたおばあちゃん役の白川和子が作る間、懐の広さを感じる小池栄子がいい味を見せる。李闘士男監督。1時間54分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

ここに注目

日常に潜むちょっとした理不尽や納得できない出来事には誰もが直面したことがあるはず。脳内でそれらと闘う中年男の悲哀が共感を呼ぶ。普通のおじさんにしか見えない春男にも運命的な選択を迫られる瞬間があり、どんな人生も生きているだけでドラマチックなんだと感じた。(倉)