(C)2005 Elite Group(2004) Enterpries Inc.

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2023.11.18

異国の地は高田にとって孤独の地でもあった。Z世代が見た高倉健「単騎、千里を走る。」

2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。

堀陽菜

堀陽菜

「孤独」
最近やたらこの言葉が頭の中をグルグルしている。
人肌恋しい季節のせいか、なかなか友人のできない大学生活のせいか、遅れすぎた厨二(ちゅうに)病が来たのか。理由は分からないが、日常に付きまとう孤独感。そんな時に大学の教授が教えてくれた作品「単騎、千里を走る。」。受講生一人のその授業は、映画好きの教授と私だけの時間だ。中国出身の教授が、日本人学生の私におすすめしてくれた作品は、意外にも日本が誇る俳優・高倉健主演の作品だった。孤独を背中に宿しているような俳優は、今の私に同情してくれているようで心地が良かった。
 

単独中国へ渡る

高倉健演じる漁師の高田は、息子の健一と疎遠になっていた。しかし健一の余命がわずかだという知らせを聞き、駆けつけるが会うことを拒絶される。見かねた健一の妻・理恵から健一が長年魅了され調査し続けた中国雲南省麗江市の仮面劇の存在を知る。息子が撮影することのできなかった舞踊家・李加民の「単騎、千里を走る。」をカメラにおさめるために単独中国へ渡る。しかし、李加民は犯罪を犯したために刑務所暮らしをしていた。何とか刑務所で仮面劇を撮影するために高田は頑固に粘り続ける。

 

日中でつながろうとする人々

私自身、大学で中国語を専攻している。よく中国語を学んでいると質問されるのが「日中関係大丈夫ですか」の一言。確かに、私目線からすると大人たちの世界では日本と中国は仲が悪そうだし、私みたいな若造では計り知れない複雑な問題はいろいろあるのかもしれない。でも、あえて若造の世界を教えるとすれば、日中関係とか忘れるぐらい日本と中国の若者は仲良くやっていけると私は思う。中国でだって自由に恋バナするし、好きな服着るし、日本のアニメだって人気だ。
複雑な日中関係があるのは事実だ。もちろん、それで心を痛めている人がいることに目を背けてはいけない。しかし、私が言いたいのはそれでもつながろうとしている人がいるという事も知ってほしいのだ。映画「単騎、千里を走る。」は、まさに日中でつながろうとする人々が描かれている。
 

孤独の地でもあった

つながりが鮮明に描かれている反面、高田の背中は孤独を物語っている。異国の地に一人で踏み込み、言葉が分からず何の役にも立てない自分自身を見つめなおして「情けない」と感じる場面が多い。息子が撮影しきれなかった仮面劇を何としてでも撮りたい一心だったが、高田の心は助けてくれる中国人への申し訳なさが見え隠れしていた。自分ではどうすることもできない、誰かに頼ることでしか生きていけない異国の地は高田にとって孤独の地でもあったはずだ。
孤独を感じる瞬間は生きていて少なからずある。物理的に1人の時もあるし、心がひとりぼっちになるときだってある。私が孤独を感じるのは後者が多い。そんな時、一番の救いは「共感力」だということに最近気が付いた。心が救われない時、誰かに一言「分かるよ」って言われたら、ちょっと楽になる。時には「ほんとにわかってんのかよ」って言いたくなる時もあるけど、誰かが自分に少しでも向き合ってくれる事実だけで結構偉大だったりする。高田は刑務所での仮面劇撮影を許可してもらうために、中国の司法局に頼み込む。しかし、外国人が刑務所に入ることは容易な事ではないため司法局は取り合ってくれない。そんな中、高田の心の内を語った懇願により司法局の人々は共感して同情し、力になろうと決意してくれる。その後は、どの場面を切り取っても、高田に対する中国人の温かさが感じられる。ここまでおんぶにだっこな人たちはいるのか?と思ってしまうほど、誰もが高田に対して協力的である。
 

ヤンヤンとの時間

この作品は、舞台のほとんどが中国なために通訳と字幕によるシーンが多い。ただ映画を見ている私たちは字幕によって中国人の登場人物が何を言っているのかが分かるから、非常に見やすいが、高田は違う。通訳なしでは自分が今どんな状況に置かれているのかさえ理解できない。とても心細いだろう。
だが、李加民の息子・ヤンヤンとのシーンは別だ。
ヤンヤンは言葉をほとんど話さない。ヤンヤンとの時間は、目と行動で会話をするような時間だった。年齢も国籍も立場も違う高田とヤンヤンが過ごす時間は何とも不思議な空間だったが、間違いなく心は通じ合っていた。
 

引き立つ孤独感は、自分への同情

この作品は、見る人によって捉え方や感じ方が大きく変わってくる作品だと思う。親子の絆にぐっとくると感じる人もいれば、人の温かさに注目すべき作品だという人もいるだろう。でも私は始終、高田の孤独さを感じる作品だと思う。そして、高倉健という役者ほど、あんなにも孤独な背中を見せてくれる役者はいるだろうかと思った。まさに「背中で語る男」、そんなふうに思った。周りの温かさがあるがゆえに引き立つ孤独感は、自分への同情だと錯覚してしまう、そんな作品であった。

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ライター
堀陽菜

堀陽菜

2003年3月5日、兵庫県生まれ。桜美林大学グローバルコミュミュニケーション学群中国語特別専修年。高校卒業までを関西で過ごし、大学入学と共に上京。22年3月よりガールズユニット「MerciMerci 」2期生として活動開始。
好きな映画は「すばらしき世界」「スピードレーサー」「ひとよ」。幼少期から兄の影響で色々な映画と出会い、映画鑑賞が趣味となる。特技は14年間続けた空手。

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  • 通訳と高田(高倉健)
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