2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。
2023.11.09
自分の目標のために自ら道を切り開いていった! Z世代が見た高倉健「ミスター・ベースボール」
11月10日は高倉健の命日です。本日よりひとシネマZ世代ライターに高倉健の名作を見てもらったコラムを連載します。高倉健を次世代に語り継ぐ。ぜひともお読みください。
「自分、不器用ですから・・・・・・」
高倉健さんと聞いてまっさきに私が思い出すのはこのフレーズである。正直に言うと、このフレーズがいつどんな状況で使われたのかは知らないのだが、このフレーズの影響か高倉健=不器用という印象がついている。そのほかにも「有名な俳優である」とか「渋そう」とか「任俠(にんきょう)映画に出ている」とか高倉健さんに関するイメージはなんとなくいろいろと思い浮かぶのだが、具体的な内容はほとんど知らなかった。
海外の作品に参加しているということが衝撃
今回高倉健さんの出演する映画の記事を書くということでいろいろと映画を調べてみたのだが、渋そうな印象の作品の中に一つだけポップな印象を受ける作品があった。「ミスター・ベースボール」である。他の作品と比べて明るい雰囲気で、しかも主演が外国人ということに大きな驚きを感じた。高倉健さんは日本の渋い映画に出ているイメージが強かったので、海外の作品に参加しているということが衝撃だった。今回はこの作品を通して、高倉健さんの魅力について書いていきたい。
娘からもあきれられるほどの不器用さ
この作品は、メジャーリーグで活躍していたジャックが日本のプロ野球に移籍するところから始まる。不調続きのジャックはメジャーリーグではあまり活躍できなくなっていた。しかし日本のプロ野球のことは見下しており、日本に来てからも常に横柄な態度をとっていた。そんなジャックに対して厳しく指導しようとするのが、高倉健さん演じる監督である。この監督、かなり怖い。常にぶっきらぼうで言い方も割ときつく、笑わない。対するジャックはヘラヘラとした顔つきで監督に反発していく。最初は常に対立している二人だが、監督の娘がかけ橋となり二人の関係は次第に良好になっていく。
この厳しい監督、私の中の高倉健さんのイメージとかなり一致していた。普段は厳しく高圧的だが、本当はその厳しさの中に不器用な優しさを持っている、まさに「昭和の漢(おとこ)」といった感じである。この人が「自分、不器用ですから」と言っても全く違和感ないくらいである。娘からもあきれられるほどの不器用さでジャックとも対立を繰り返すが、本当は娘のことも大切に思っており、また一番ジャックの実力を認めている人物でもあった。さらに、監督は頑固ではあるものの、ジャックの「野球はゲームで楽しむべきだ」という考えに次第に順応していくところも慕われるゆえんだと思う。
高倉健さんの目の演技
私はこの映画を見て、高倉健さんの魅力は厳しく怖い人物を演じても魅力的にみえるところだと感じた。私は高圧的なキャラクターは苦手に感じることが多く、あまり好きになれない場合が多いのだが、この監督の場合は登場シーンから一切不快感を抱くことがなかった。なぜこのように魅力的に感じるのかと考えたとき、その理由は高倉健さんの目の演技にあるのではないかと思った。この監督はほとんど笑わないし常に仏頂面だが、人と話すとき常に相手の目をまっすぐ見て話す。一度鑑賞しただけでもすごく印象に残るくらい、まっすぐに相手の目を見ていたのである。これが苦手意識を感じなかった理由ではないかと思った。「目は口ほどにものを言う」とよく言われる。ただの嫌がらせだったり八つ当たりだったりしたら、ここまで相手の目をまっすぐは見ないと思う。監督が自分の信念に基づき、相手のためを思って叱咤(しった)しているからこそまっすぐな視線なんだろうと思った。また、相手の意見を聞くときもまっすぐに目を見ていた。ただガン飛ばし合っているだけのように見えなくもないが、これも相手の意見を真っ正面から受け止めようという彼の強さなのではないかと感じた。
高倉健さんの挑戦意欲
また、もう一つこの映画を見て感じたのは高倉健さんの挑戦意欲のすごさである。おそらく高倉健さんが子供の頃は英語学習は盛んでなかったはずなのに、この作品の中で高倉健さんは英語をスラスラと話している。もちろんものすごく流暢(りゅうちょう)なわけではないが、せりふとして覚えた、というよりも英語を勉強して使えるようになった、というような話し方なのである。つまり、明らかに英語を自分のものにしているのである。調べてみたところ、高倉健さんは1970年の「燃える戦場」という作品をはじめに、4本のハリウッド映画に出演していることが分かった。また2006年には中国を舞台にした日中合作映画「単騎、千里を走る。」にも出演している。なぜこんなに英語を話すことができるのか。こちらも調べると、高倉健さんは昔から英語が好きだったということが分かった。学生時代から、アメリカ映画を見て英語を勉強したり、高校でESS(英会話クラブ)を立ち上げその部長を務めていたりと英語に多く関わってきたそうだ。大学生の時も貿易商になりたいという目標のために英語の勉強を続けていたそうである。彼は英語が盛んではなかった時代でも自分の目標のために自ら道を切り開いていったのだ。その挑戦がハリウッド映画出演につながったと考えると、彼の挑戦意欲も彼の人生や彼の魅力を形作っているのだと感じる。
「不器用」というのは高倉健さんのほんの一部
高倉健さんは、非常に細やかな演技をされる方だと思う。この映画でも、厳しい監督としての面や、娘を持つ父親としての一面、実は崖っぷち状態であるという一面などさまざまな監督の表情を演じていた。そしてそれらのどの表情も非常に魅力的だった。「自分、不器用ですから」というせりふとは裏腹に、繊細で細やかな表情をされる高倉健さんは本当に魅力的な役者である。ちなみにこの「自分、不器用ですから」というセリフなのだが、84年に放送された日本生命のCMで使われたものだったことが分かった。このCMが高倉健さん=不器用というイメージを強固にしたのだという。しかし今回高倉健さんのことを調べていると、高倉健さんは「非常に礼儀正しい人物だった」とか「実は非常によくしゃべる人だった」とかさまざまな情報が出てきて、「不器用」というのは高倉健さんのほんの一部でしかないのではないかと感じた。おそらくまだまだ高倉健さんの魅力は奥深く、この作品で味わった魅力もまだほんの一部なのだと思う。高倉健さんは、時代や国を超えて205本もの映画に出演しているという。彼の演技をもっとたくさん見て、もっと彼の魅力を発見してみたいと思う。
「ミスター・ベースボール」
Blu-ray: 2,075 円 (税込) / DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 1992 Universal City Studios, Inc.