©2022 「ヘルドッグス」製作委員会

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2022.9.06

【ヘルドッグス公開記念】原田組、ここにあり! 素晴らしき日本映画/原田眞人監督論 「The present progress」

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

2022年9月16日「ヘルドッグス」の劇場公開を記念して、映画ジャーナリスト・洪相鉉氏による「原田眞人監督論(全3回)」をお届けします。
  
「もうすぐ到着されます」
「客席にソウル国際女性映画祭の邊在蘭(ビョンㆍジェラン)組織委員長がいらっしゃるようだが」
「おふたりに大変期待しているようです(笑い)」
2022年7月12日、原田眞人監督マスタークラス本番10分前。
進行状況をチェックし、約2カ月前から準備しながら本人の確認までしてもらったマスタークラスの原稿を点検する。24年前、日本の参加者としては唯一「KAMIKAZE TAXI」と「バウンス ko GALS」の2本が同時に第2回富川国際ファンタスティック映画祭に招待された原田眞人監督は、韓国通貨危機の影響で映画祭期間を2日縮められて開催され、憂鬱な日々を送っていた韓国のシネフィルを素晴らしい作品でなぐさめた。原稿で富川国際ファンタスティック映画祭と韓国映画の発展ぶりを問う内容を検討していたところ、個人的に国際映画祭出品関連の相談をしてきた日本映画業界のある人物との対話が思い浮かんだ。

自分の作品のメリットを浮き彫りにするために、彼は「漫画原作にアイドルを採用したメジャースタジオの映画」が、日本映画のすべてであるかのように罵倒した。そして、最近のアメリカアカデミー賞を受賞したアジア監督の作品について話しながら、「現実に対する風刺とジャンル映画の面白さで観客の興味を誘発する社会派の問題意識で世界人にアピールすることを見ると、やはり日本映画は追いつけない」と。筆者はその瞬間、18年7月から100人を超える日本映画人インタビューをしてきた経験を通じて学んだ教訓を思い出した。
 

原田監督が世界へ届けたメッセージ

根拠のない薄弱な批判であればあるほど、口調が強硬で話を膨らませている。筆者の記憶では、社会派の問題意識と風刺、ジャンル映画の面白さなどで世界の観客を魅了し日本人監督がすでに数十年前から活躍しており、今も旺盛な活動を続けているためだ。富川国際ファンタスティック映画祭に招待された249人の国外ゲストの中で、断然目立つ原田監督はその手本とも言える。
まず冒頭で述べた「KAMIKAZE TAXI」を見てみよう。権力層の醜悪な実体を知っているアウトローの男(高橋和也)が偶然、移住労働者(役所広司)と遭遇する設定から出発する同作が今も評価されている理由は、論争的な素材を前面に配置し、ジャンルの面ではギャング映画とロードムービー、バディームービーにコメディーを絶妙に混合する一方、作品の随所に人物のインタビューやニュースの画面などを入れ、ドキュメンタリーのスタイルまで借用する高い完成度のためだ。 当然、世界舞台でも好評を博した。
「KAMIKAZE TAXI」の2年後に公開された「バウンス ko GALS」はどうか。同時代の若者たちの暗澹(あんたん)たる現実を語り、彼らを支持する勇気を見せている。その半面、既成世代に対する風刺や批判は鋭くて奇抜だ。トイレ掃除を強要する官僚、太平洋戦争当時の恥ずかしい経験を堂々と語る戦争犯罪者、日常生活を送れない性依存症患者などを登場させ、「典型的なナラティブ映画であると同時に、政治的批判意識が生きているめずらしい大衆映画」と海外メディアから絶賛された(「CINE21」02年12月3日)。

第4回富川ファンタスティック映画祭の招待作であり、初の韓国公開作である「金融腐蝕列島〔呪縛〕」も欠かせない。タブーの領域にカメラを向ける点では、前作の延長線にあるが、扇情的なルポルタージュの態度をとらず、金融帝国の興亡史に対する深い分析を披露した。ただこれだけなら、今日の韓国映画関係者などが言及するほど深い印象を残すことはできなかっただろう。さらに大御所はここに不正なシステムに挑戦する内部の抵抗勢力を描き、面白さを倍増させた。突然、希望的なメッセージを提示する性急さを示さなかったのも美徳である。そして、ダイナミックなカメラワークで、約60人の役者と公募で選ばれた300人のエキストラが出演する株主総会のシーンの躍動感を無理なく盛り込んだ演出力は、現代アジア映画の金字塔とも言える。
ふと想像してみる。歴史に仮定はないというが、ポリティカルコレクトネスの意識向上とコンテンツの枯渇により、アジア系監督の重みがおよそ20年前とは全く違う地位を持つ昨今、上記の3本が公開されたら、映画会社の雰囲気はどのように変わったのだろうか。相談を終えながら、日本映画業界のある人物について断固としたコメントをした。
「日本映画についてもっと勉強してみたらどうでしょうか」
 
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第1回:原田眞人監督論 「The present progress」
第3回:原田眞人監督論 「The present progress」

ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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