国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2022.9.06
【ヘルドッグス公開記念】世界がリスペクトを送る多才な人物/原田眞人監督論 「The present progress」
2022年9月16日「ヘルドッグス」の劇場公開を記念して、映画ジャーナリスト・洪相鉉氏による「原田眞人監督論(全3回)」をお届けします。
2022年7月12日、原田眞人監督マスタークラス。本番7時間前。
ホテルのロビーで映画祭の人々と出くわした。ヨーロッパ人とアジア人が入り交じっている。
「Where's the master? Resting? (マスターはどこ? 休まれているの?)」
「Never. I think he’s probably exploring Seoul. (いや。 おそらくソウル探検中でしょう)」
4日間、9本のコンペティション部門の作品を見て、審査員会議まで参加しなければならない厳しい日程にもかかわらず、疲れを見せていない。とても73歳とは思えない体力。テレビ局が中継する開幕式で「特捜刑事マイアミㆍバイス」のドンㆍジョンソンを連想させる白ジャケットを着て登壇した彼は、流ちょうな英語でウイットとユーモアあふれるスピーチで聴衆を感嘆させた。今年で26回目を迎えるアジア最大のジャンル映画フェスティバルであり、アジア唯一のメリエス国際映画祭連盟(MIFF)の加盟映画祭の審査員を代表して。
国際映画祭関係者などが原田監督に言及する場合、日本人の名前で姓と名前を変えて呼ぶミスはほとんどない。彼は観客と評壇の両者に歓迎される多くの日本映画以外にも、初期に「X-MEN」シリーズで有名なイングランド人俳優のパトリックㆍスチュワートが出演しベルギーやオランダ、ドイツなどで撮影した「ウインディー」を作り、ピュリツァー賞に輝いたアメリカのジャーナリスト、デイビッドㆍハルバースタムの原作を映画化して話題になった「栄光と狂気」で、さらに存在感をアピールした。さらに、4億5675万8981ドルの興行収益を記録したワーナーㆍブラザースの映画「ラスト サムライ」でトムㆍクルーズ、渡辺謙らと共演した俳優としてのキャリアまで持っている。実際、南カリフォルニア大学で映画を専攻していた筆者のアメリカ人の友人が「栄光と狂気」を見たとき、彼を「カズオㆍイシグロ」のような日本人のヘリテージを持つ欧米の映画監督だと思ったが、「ラスト サムライ」の原田氏が「流ちょうな日本語」を駆使していて驚いたという。
グローバルな日常と今なお続く探求心
いわゆる「グローバル化」が、ただの日常の映画作家。ただし、この「グローバル化」は、1980年代末に通貨危機に陥った国々に対する国際通貨基金(IMF)と世界銀行(世銀)のワシントン・コンセンサスと世界貿易機関(WTO)の創設、すなわち「資本が意識を強制した結果」だったグローバル化とは異なる。原田監督自身が誰の影響も受けず、自ら実現したグローバル化である。海外映画祭への出品や受賞を五輪でのメダル獲得のように勘違いする大げさな報道があふれている最近の雰囲気に比べて、個別化された主体の概念を拒否し、フランス哲学のジルㆍドゥルーズとフェリックスㆍガタリが唱えた主体性(subjectivité)の概念を想起させる原田監督の歩みは、だからこそ大事なのだ。何よりも「意識の断絶」自体が、当初から存在さえしなかったという点で。
ふと、1972年、 夢にあふれ笑顔でロンドンを駆け回った22歳の青年を想像した。監督を志していた彼は、「古今東西の作品を『浴びる』ように」1月下旬から7月下旬まで600も見ていた。今日の「ソウル探検」も、20代のころから現在まで続く積極的な探求心の発露だろう。
「You call him Master, so he's like a Jedi knight. (マスターと呼ぶとジェダイナイトのようですね)」
「Or Richard the Lionheart. (あるいは獅子心王とか)」
監督デビューから43年間、どちらとも決めずにずっとカリフォルニアと日本という2カ所の拠点を維持してきたため、むしろ「世界的」という修飾語が旧態依然と感じられる人物。ふと国際交流基金主催のジャパンフィルムナイトでそれに気づかず、日本での活動を「帰ってきた」と表現し、「決断のきっかけ」を尋ねた筆者の愚かさを反省する。世界の中の日本映画が単なる「レトリック」ではなく、切実な生存の道になっている今の現実で、説教ではなく日常の言語で述懐する人生の軌跡として手本になった人物。もしかしたら我々はすでに私たちとともにする未来のロールモデルを認識すらできないまま、数十年の歳月を経てきたのかもしれない。
突然のジョークに皆が笑っている間、メモ帳を取り出し、本稿を含め3回にわたって連載することになる原田眞人監督論の副題を書いた。
「The present progress(現在進行形)」
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