© 2008「東京少女」製作委員会

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2023.8.27

その人だから書けるユニークな「演者に注目したコラム」が読みたい! Z世代が書いたコラムを元キネ旬編集長が評価する

ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。

関口裕子

関口裕子

古庄菜々夏

古庄菜々夏

大学生のひとシネマライター古庄菜々夏が書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)。

「演者に注目したコラム」が読みたい!

人の数だけ感じ方の種類がある。背景や感性、インプットしてきたものが異なるため、同じ映画を観ても感じ方はさまざま。他者は気づかない興味深いポイントをくみ取る人は多い。映画について書いたものを読みたくなるのにはそんな理由もある。
 
Y2K(=2000年代のファッションやカルチャー)に注目する古庄菜々夏さんのコラムにひかれるのも、まさにそこだ。映画コラムを書く理由を「キャラクター自身だけではなく演者に注目したコラムも面白いのではないか」とする古庄さんは、俳優を目指している。そんな彼女が「東京少女」を演じる夏帆をどう見たのか? とても興味深い。
 
このコラムで古庄さんは欲張りにもテーマを3つ設けている。1つは、夏帆の魅力が年とともに自然に変化してきたところであること。2つめは、作品が明治と平成、2つの時代を携帯電話でつなぐ作品であること。3つめは伝えられるうちに思いを伝えることの大切さについて。テーマを3つ設けたため、「東京少女」という作品が持つ注目ポイントは細かく網羅されている。
 
ただし、古庄さんが「東京少女」を演じる夏帆をどう見たのか? は消化不良で終ってしまう。「演者に注目したコラム」だと思い、読み始めた読者は物足りなさを感じるだろう。1つめの演者についての考察をベースにしつつ、2や3に触れ、まとめとして再度、演者への考察に戻るような構成も、古庄さんのコラムをより魅力的なものにしてくれるかもしれない。

古庄さんのコラム

私がこのコラムを執筆させてもらうのは2回目だが、執筆するにあたって私が書く理由みたいなものを最近、悶々(もんもん)と考えていた。そこで、役者志望が役者について語るのは気が引けるが、キャラクター自身だけではなく演者に注目したコラムも面白いのではないかと思った。
 
今回の映画だと、主演である夏帆さんが印象的だった。この映画の公開前年2007年「天然コケッコー」で映画初主演を果たしており、私が近年拝見する夏帆さんとは違うあどけない少女がそこにはいた。夏帆さんが芸能活動を始めたのは03年、私が生まれた年だ。近年の夏帆さんのイメージだと、15年「海街diary」や22年「さかなのこ」、テレビドラマでは同年「silent」や23年「ブラッシュアップライフ」があげられる。近年の話題作に幅広い役で次々と出演している夏帆さんだが、この作品ではそんな夏帆さんとはまた違うあどけなさが残る彼女を感じた。役者として10代、20代、そして30代と年齢によって感じることや、求められるものも変わるのではないかと思う。自分自身と向き合い続け、期待に応え続けてきたであろう夏帆さんだからこそ、どの年代の夏帆さんを見ても自然体でありつつ、不思議な魅力があるのだ。
 
私もそんなふうに続けていける役者を目指したい。これは先日、東京で役者として活躍する先輩に役者になろうと思った理由を聞いた際に、「役者には定年がない、だから面白いと思った」とおっしゃっていた。その時このコラムのことを思い出した。未熟だからこそ表現できるものもあれば、老いることで魅力的に映る表現もあるのが役者の一生なのであり、それが心を惹(ひ)かれる部分なのかなと思った。
 
このコラムでは2000~2009年代の映画に注目しているためこんなふうに、近年活躍する役者の若かりし頃に出会える良いきっかけとなる。さて、ここからは内容について少し触れたいと思う。明治と平成、二つの時代に生きる未歩と時次郎はお互い一1度も会わないまま別れを迎える。会っていないのに別れるなんておかしいと思うかもしれないが、それがこの映画の醍醐味(だいごみ)であり、この映画をより魅力的にしている要素である。この映画内で終始2人をつないでいたのは一つの携帯電話だった。映画の冒頭、未歩が落とした携帯電話が明治時代に生きる時次郎という少年の元へ届く。小説家志望であること、お互いに片親をなくしていることなど共通点があり意気投合し、携帯電話を通して自身の悩みや夢を語り合う仲となり、徐々にお互いを意識するようになっていく。
 
なぜ私がこの物語に惹かれたのかというと、私はタイムスリップはせずとも共感する部分があったからだ。というのも、この映画を教えてくれたのは海外に住む同年代の友達なのだ。その友達とはよくチャットをしたり電話をしたりするのだが、時差の関係で電話ができる時間が限られているうえに、離れているから簡単には会うことができない。携帯電話が唯一私たちをつないでくれる手段なのだ。そんな中で、近況やお互いに見た映画の感想などを共有し合う時間は私にとっては何にも代えがたいものである。これは、地元にいる家族や友達にも言える。特に4月は、地元から離れて生活を始める人も多い時期。離れていても、伝えられるうちに思いを伝えることの大切さを教えてくれるこの作品は、きっと新生活が始まった人の胸にも響くだろう。
 
先ほど、「伝えられるうちに」と表記したのには意図がある。映画の内容に戻るが、2人が思いを通わせ始めたころ、未歩は現代で重大な事実にたどり着いてしまう。時次郎は池で溺れて死んでしまったという新聞の記述を見つけるのだ。未歩は電話で時次郎にそのことを伝えるのだが、肝心なところで電話は切れてしまう。
 
しかし、そこで物語は終わらない。時次郎が最後に未歩に届けようとしたメッセージは思いがけない形で未歩の元へ届くことになる。未歩だからこそ受け取ることのできる時次郎の思い。ぜひ映画を見て確かめてほしい。
 
Huluで配信中

ライター
関口裕子

関口裕子

せきぐちゆうこ 東京学芸大学卒業。1987年株式会社寺島デザイン研究所入社。90年株式会社キネマ旬報社に入社。2000年に取締役編集長に就任。2007年米エンタテインメント業界紙VARIETYの日本版「バラエティ・ジャパン」編集長に。09年10月株式会社アヴァンティ・プラス設立。19年フリーに。

ライター
古庄菜々夏

古庄菜々夏

ふるしょう・ななか
2003年7月25日生まれ。福岡県出身。高校の時に学生だけで撮影した「今日も明日も負け犬。」(西山夏実監督)に主演し「高校生のためのeiga worldcup2021」 最優秀作品賞、最優秀女子演技賞を授賞。All American High school Film Festival 2022(全米国際映画祭2022)に参加。現在は東京の大学に通いながら俳優を目指す。