ハケンアニメ ©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

ハケンアニメ ©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

2022.6.16

「ハケンアニメ!」エンドロールに名を連ねたことがある私に、作品への愛を思い出させてくれた:映画の推し事

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

きどみ

きどみ

「こんなにたくさんの人が、作品づくりに関わっているんだよ」。幼稚園くらいの時だったと思う。アニメーション映画のエンドロールを見ながら、隣にいた母がつぶやいた。
 
それから私は、作品を鑑賞する際はエンドロールに注目するようになった。何が書かれているかわからない洋画でさえも、食い入るようにして見ていた。名前の数だけ人の思いが込められていると思うと、作品をよりいとおしく感じられたのだ。
 


 

泣きながら終電で帰った、制作進行のつらい日々

月日は流れ大学の卒業が近づき、職業選択を迫られた私は、「エンドロールの一部になりたい」という理由でアニメーション制作会社に入社。そして「制作進行職」に就いた。制作進行とは、アニメーションが無事にオンエア、劇場公開されるよう、責任を持って担当話数のスケジュールやクオリティーの管理を行う仕事だ。
 
「ついに自分の名前がエンドロールに流れる」と期待に胸を膨らませて入社したものの、数週間でとんでもない業界に入ってしまったと後悔するようになる。多くの人が関わるため絶対にミスが許されない空気感。納期よりもクオリティーを優先し、いつ仕上がるかを確認すると怒り出すアニメーターたち。「もう少しかっこよく」と曖昧なリテークを出す監督……。
 
つらすぎて、泣きながら終電で帰った日もある。だがどんなに逃げ出したくなっても、エンドロールに自分の名前が流れた瞬間、嫌な感情が全てすっと消えていく。絵コンテでは棒人間同然だったあの絵が、アニメーターや声優たちに命を吹き込まれ、元気に動き回っている。その事実が尊く、何にも代え難い達成感を得られた。

 

原作読んで涙止まらず

私が映画「ハケンアニメ!」と出会ったのは、心が不調になり業界から離れてちょうど1年がたったタイミングだ。映画を見る前から、「刺され、誰かの胸に――。」という壮大なキャッチコピーに心を射抜かれた。
 
鑑賞前に、辻村深月の原作小説を読んで予習。アニメーション業界の泥臭さや人間ドラマがものすごく繊細に描かれていて、読んでいて何度もため息がでた。一時は忘れようとした悔しさやもどかしさ、そして何よりアニメーションづくりの尊さを一気に思い出して、気がついたら涙が止まらなくなっていた。
 
「これ、本当に映像化できる?」。読了後に感じた、率直な疑問だ。正直、600ページにも及ぶ原作が素晴らしすぎて、実写映像化されることによって小説の世界観が壊されてしまうことが怖かった。
 
だが、そんな自分の心配は全くの杞憂(きゆう)に終わる。
 

ビジュアル表現を得て新生した映画版

映画版「ハケンアニメ!」は、映像でしか作れない、全く新しい「ハケンアニメ!」だった。
 
映像にできて小説にできないこと。それは「ビジュアル」での表現だ。表情や態度、クセなど「言葉にできない」ささいな表現を見事に映していたのだ。
 
映画では、2作のアニメ「運命戦線リデルライト」と「サウンドバック奏の石」、どちらがアニメ界の「覇権」を獲得するか競い合う様子が描かれる。作品を通して、制作する過程で生じる、監督、プロデューサー、アニメーターのそれぞれの悩みや葛藤がしっかりと伝わる構成になっていた。
 
「運命戦線リデルライト」の監督・王子千晴(中村倫也)は、「世間の評価」と戦っていた。デビュー作が大人気アニメとなった王子は、一瞬にして〝天才〟と呼ばれ、世間をトリコにした。作りたいものを作ろうとする一方で、期待に応えなければというプレッシャーも感じ、葛藤する姿が映し出されていた。
 
印象的だったのは、王子が広い自室の片隅で、膨大な量の絵コンテに囲まれながら鉛筆を動かしていた姿。寝食を忘れ、たった1人でコンテを描き続けていた姿に、監督という役割のすごさと孤独を感じた。 
 

監督とプロデューサー 信じることの難しさ

王子が完成させるのを最後まで信じて待ち続けていたのは「運命戦線リデルライト」のプロデューサー・有科香屋子(尾野真千子)。「何もせず、待つこと」がどれだけ不安なことかが彼女の表情や演技で伝わってきた。孤独な監督に一番近い距離にいたのは間違いなく有科である。その証拠に、王子は絵コンテを描き上げると真っ先に有科に渡し、感想を聞いている。孤独な監督と、その監督を見守るプロデューサー。2人の関係は、信じることの難しさと尊さを描いていた。
 
「サウンドバック奏の石」で監督デビューを果たした斎藤瞳(吉岡里帆)は、「監督という仕事」と戦っていた。アニメを作りたくて公務員から転職したのに、打ち合わせや宣伝活動など「絵を描く」以外の業務の多さに疲弊する日々。仕事が忙しすぎて大好きなエクレアを食べられない斎藤の様子は、見ていて切ない。
 
斎藤の初監督業は、失敗ばかりだった。アニメーターにはうまく指示が出せないし、声優には強く当たってしまう。「絵を描く」以外の部分で多くの壁にぶつかり悩んでいた彼女は、段々と監督としての威厳を無くしてしまっていた。
 
そんな彼女を陰で支え続けたのは、やはりプロデューサーである行城理(柄本佑)だ。「夢」や「希望」があるアニメーションの世界で、お金や視聴率など現実的な数字について常に考えている。行城の発言には情がなく、淡々とした口調で物事を進めていく。一見すると冷徹な人間だが、彼のような存在がいなかったら、アニメーションで夢や希望を届けることはできないだろう。
 

非情な現実主義者が見せる作品への愛

有科とは違った方法で監督を信じ、時にキツイ言葉を伝えながら斎藤を鼓舞し続けていた。物語の終盤、斎藤が描きたいラストを尊重し、現場の人々を動かした行城の姿からは、監督への信頼と作品への愛が感じられ、思わず泣いてしまった。
 
ささいなやりとりの裏にある、プロデューサー、監督、アニメーターそれぞれの立場のさまざまな思いを大事に切り取り、うまく映像化したのが映画版「ハケンアニメ!」なのである。だから、何かの制作に携わった経験がある人はもちろん、悩んだり葛藤したりしたことがある人の胸に「刺さる」のだ。
 
そして、映画版「ハケンアニメ!」のもうひとつの大きな魅力は、間違いなく劇中アニメーションだ。アニメーション業界が舞台なうえに、タイトルに「アニメ」という単語が入っているからには、劇中アニメーションのクオリティーがどうしても問われてしまう。
 
劇中で流れた2作のアニメーション「運命戦線リデルライト」と「サウンドバック奏の石」は、どちらもかなりクオリティーの高い映像作品だった。両者はそれぞれの監督の特徴や「描きたいこと」をそのまま再現した全く違う2作へと仕上がっている。
 

1話ごとに絵が変わるハードル高い劇中アニメ

バイクレースをテーマにした魔法少女アニメ「運命戦線リデルライト」は、「1話ごとに1歳ずつ歳を重ねる」という制作者泣かせの演出をしている。毎話ごとに絵が変わるため、制作者は同じ絵を使い回すことができない。作品のためとはいえ、〝天才〟ならではの、思い切った決断である。ピンクを基調とし、パーティクルがあふれる世界は一歩でも間違えたらごちゃついた絵になりそうだが、王子監督ならではの技量で、しっかりとよきバランスを保っていた。少女たちのとがった発言にも、王子監督の人柄が表れている。
 
子ども向けロボットアニメ「サウンドバック奏の石」も、「各話ごとに異なる形のロボットが登場する」という挑戦的なアニメだ。斎藤監督が子どもたちのために作った本作は、どの話も毎回かっこいいビジュアルへと仕上がり、子どものみならず大人まで魅了した。「サウンドバック奏の石」で登場したロボットのおもちゃで遊ぶ子どもたちの様子は、まさに斎藤監督が実現させたかった未来だろう。まっすぐな監督の思いがそのまま投影された作品であるからこそ、最後は物議を醸す展開となっている点にも注目だ。
 
どちらの作品も印象的だったのは、アニメーターや声優に対する監督のリテイクが、きちんと反映され、より良い作品になっていく過程を追える構成になっている点だ。「どのカットがどう変わったのか」がわかると、より作品を楽しめるし、作品に対する思い入れも強くなる。
 

魂の結晶を見て「いつかまた…」

王子組、斎藤組の現場のみんなが紆余(うよ)曲折しながら作り上げた魂の結晶が、ちゃんと作品に表れていたので、このアニメーションを見るだけで彼ら/彼女らが妥協せず、こだわり抜いたことが理解できると思う。
 
映画を見ながら、現場にいた頃の記憶を思い出した。毎日が忙しく、生きるのに精いっぱいな環境だったけれど、みんな作品を愛していて、その愛が原動力となり作品を生み出し続けていたのだ。
 
「ハケンアニメ!」が「刺さった」私は、現場から離れてしまったことを少しだけ後悔した。いつかまたエンドロールに名を連ねたいと思ったことは、今はまだここだけの話にしておく。
 
全国で公開中。

ライター
きどみ

きどみ

きどみ 1998年、横浜生まれ。文学部英文学科を卒業後、アニメーション制作会社で制作進行職として働く。現在は女性向けのライフスタイル系Webメディアで編集者として働きつつ、個人でライターとしても活動。映画やアニメのコラムを中心に執筆している。「わくわくする」文章を目指し、日々奮闘中。好きな映画作品は「ニュー・シネマ・パラダイス」。
 

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