三姉妹(c)2020 Studio Up. All rights reserved.

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2022.5.03

先取り! 深掘り! 推しの韓流:「三姉妹」 脚本にほれ込んだムン・ソリの究極の演技 

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

佐藤結

佐藤結

先取り!深掘り!推しの韓流

男性監督が描く女性たちの物語

世界中の国々と同じく韓国映画界でも、これまでは「男性の作り手による男性についての物語」が圧倒的多数を占めてきた。しかし、2018年以降、女性監督たちが手掛けた作品が、商業映画、インディペンデント映画を問わず目立ちはじめるようになり、その中から「はちどり」(18年)や「82年生まれ、キム・ジヨン」(19年)、「チャンシルさんには福が多いね」(同)といった作品が日本にも紹介されてきた。「三姉妹」は、男性であるイ・スンウォン監督による作品だが、彼が女性たちと手を組んで作り上げた女性たちの物語であるという点で、こうした流れの中にある作品であるといえる。


 
この映画の製作においてキーパーソンとなったのは、プロデューサーとしても名を連ねている主演のムン・ソリ。世界的に評価の高いイ・チャンドン監督に見いだされ、デビューから2作目の「オアシス」(2002年)でベネチア国際映画祭の新人賞に選ばれて以降、韓国を代表する俳優として映画を中心にキャリアを積んできた彼女は、中央大学先端映像大学院の修士課程で学び、17年には監督作品も発表している。
 

「三姉妹」ミヨン役のムン・ソリ

始まりは釜山映画祭での出会い

そんなムン・ソリが釜山国際映画祭に審査員として参加した際に知り合ったイ・スンウォン監督から新作の脚本を渡され、物語を牽引(けんいん)する3姉妹の次女ミヨン役をオファーされたことから、映画作りが始まったという。サンドラ・ブロックやシャーリーズ・セロンら、近年、ハリウッドでは、女性俳優たちが製作に加わりながら新しい役柄を開拓している例が多いが、今後、ムン・ソリも、彼女たちの列に加わっていくのではないかと予感させる。
 
娘との不仲と金銭問題、夫の浮気、思うように築けないキャリアと、それぞれに悩みを抱える3姉妹の現在とその裏に隠された幼い日の心の傷を、飾り気のないタッチで見せていく「三姉妹」。韓国の映画雑誌「cine21」(ウェブ版、21年2月4日)とのインタビューで「究極の演技が見られる作品が書きたかった」と語っていたイ・スンウォン監督は、前述したようにその脚本を韓国最高の俳優のひとりであるムン・ソリに託した。
 
さらに、すべての不幸の原因であるかのように、自らを責め続けて生きてきた長女ヒスク役には、妻でもあるキム・ソニョンを起用。日本でも大ブームを巻き起こしたドラマ「愛の不時着」で北朝鮮女性に扮(ふん)して人間味あふれる演技を見せて以降、映画にドラマに引っ張りだこの彼女が、持ち前の愛嬌(あいきょう)を封印し、痛みの中で生きる女性を哀切に見せている。

「三姉妹」ヒスク役のキム・ソニョン

ままならぬ家族、夫婦の関係

2人の見事な演技は、多くの映画賞での主演賞、助演賞に結実した。さらに、三女ミオク役は、モデル出身でバラエティー番組でのざっくばらんなトークでも知られているチャン・ユンジュ。大ヒット映画「ベテラン」(15年)で、豪快な性格の刑事を好演した経験があるものの、芝居場の多いキャラクターを演じることに不安があったという彼女だが、実力ある先輩俳優たちに負けない存在感を見せている。
 
「三姉妹」では、3姉妹全員が既婚である点も、特筆される。長女ヒスクは離婚した元夫に金をせびられ続け、次女ミヨンは夫との信頼が壊れていく。三女のミオクだけは年上の夫から献身的に尽くされているが、彼女自身がその愛を受け入れる術(すべ)に気づいていない。家族という関係のままならなさに翻弄(ほんろう)され、夫婦という関係においても難しさを抱える女性たちの物語は、若者や独身女性に注目することが多かったこれまでの作品群とは違う方向性を見せた。

 「三姉妹」ミオク役のチャン・ユンジュ

「シュリ」のハン・ソッキュにはじまり、ポン・ジュノ映画でおなじみのソン・ガンホ、多彩な作品で活躍するスター、イ・ビョンホンなど、男性俳優の名前で語られることが多かった韓国映画。「三姉妹」を皮切りに、実力ある女性俳優たちの存在にさらなるスポットが当たっていくことを願ってやまない。

イ・スンウォン監督インタビュー「チャン・ユンジュの新しい顔」はこちら。

6月17日、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町などで公開。

ライター
佐藤結

佐藤結

さとう・ゆう 映画ライター。1990年代に交換留学生として韓国・延世大学へ留学。韓国映画やドキュメンタリー映画、韓国ドラマを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニムズ・ジェンダーから読む」(青弓社刊)がある。スカパー!の映画サイト「映画の空」では、毎月、おすすめの韓国映画についてのコラムを連載中。