誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.2.22
約40年ぶりに蘇(よみがえ)る無冠の社会問題作「カラーパープル」を高校生が見た!、「感動のミュージカルとして戻ってきた」
映画ファンなら、「カラーパープル」と聞いて知らない人はいないだろう。かのスティーブン・スピルバーグ監督による〝 衝撃の名作 〟だ。当時、「ジョーズ」、「未知との遭遇」、「インディ・ジョーンズ」、「E.T.」と次々と娯楽的な映画でヒットを飛ばし、興行成績を次々と塗り替えていた天才スピルバーグ監督。1985年に初めて挑んだシリアスな映画は、当初はヒットしなかったものの口コミが口コミを呼び、5カ月以上上映されるほどのロングランヒット作品となった。
原作は、1983年にピューリツァー賞を受賞した、アリス・ウォーカーの「カラーパープル」。黒人。女性虐待。人種差別。そして自立までを描いた衝撃の問題作。
スピルバーグがユダヤ人であることから、黒人の心を理解しないと、アリス・ウォーカーは当初、彼に監督を任せることに難色を示したという。しかし、かのクインシー・ジョーンズが音楽担当をすることになり快諾。主役のウーピー・ゴールドバーグは、彼女の舞台を見たアリス・ウォーカーが大抜てきしたというエピソードがある。
ロングランヒットにも関わらず、賞狙いと揶揄(やゆ)された結果、この名作は、第58回アカデミー賞では作品賞を含む10部門11ノミネートされながらも、無冠に終わる。史上、無冠の史上最多記録となっている屈辱の歴史となった。
しかし、約40年ぶりにミュージカル映画として新たに誕生した「カラーパープル」は、さらなる感動を連れてきた! オリジナル作品を尊重しつつも、はるかにパワーアップ。スクリーンから降り注ぐ、闇からの光、そして魂から湧き出る圧倒的な歌声は観客を感動の渦に見事に巻き込んでいく。
引き裂くことのできない姉妹の絆
物語は、冒頭から衝撃的だ。一高校生が一人で鑑賞するには、目をつぶりたくなるシーンの連続だった。主人公のセリーは、幼少期から父親からの性虐待を受け、2回も妊娠させられてしまう。赤ん坊は、金銭的理由によって2人とも里子に出された。さらに10代でありながら、ミスターという年の離れた男性との結婚を無理強いされた彼女は、嫁ぎ先で奴隷のようにこき使われ、虐待され続けた。
そんなセリーの心を癒やしたのは、血を分けた妹ネティの存在だった。姉妹が、仲良く過ごしているシーンは、虐待という闇で生きているセリーの中の唯一の光のシーン。セリーと違い、明るく教養もあるネティ。2人はまさに陰と陽、表裏一体の関係だった。だが、そんなネティも父親から暴行されかけ、姉を頼ってミスターの家に転がりこんでくる。姉妹のしばしの再会は平穏に見えた。だが、もともとはネティと結婚したかったミスターの蛮行により、家から追い出されてしまう。姉妹は手紙を書きあうことを約束して、別れるが・・・・・・。
現代と違い、スマホもSNSも無い時代。案の定、手紙は届かない。冒頭の場面に出てくる「US have One Heart」(離れていてもこころは一つ)という言葉がとても耳に残っているが、セリーは「信じる」ことを支えにするしかなかった。物語の後半で、長い間、実はミスターが手紙を隠していたことがわかり、セリーは妹を信じてきた自分が正しかったのだと確信する。手紙は読めなかったが、姉妹の気持ちはつながっていたのである。
抑圧からの自立、女性のエンパワーメントがさく裂する
虐待という暴力で、目をそむけたくなる、心痛むシーンが劇中に何度も登場した。セリーが、運命にあらがえないと信じ切っていたことが切ない。「なぜ神はいないの」「神が本当に存在するのだとしたらなぜこのような悲劇が起きるの」とセリーが繰り返す場面では共感のあまり、スクリーンの前で何度もうなずいてしまった。
しかし、ミスターの長男が結婚したソフィアは、隷属しているセリーを批判する。さらに、ミスターの憧れであった女性歌手のシュグとの出会いがセリーを目覚めさせる。運命に立ち向かう勇気がなかったセリーが、こういう強い意志を持った仲間たちに励まされ、気持ちを奮い立たせて歌唱するシーンには、私も思わず椅子から立ち上がりそうになるほど感動した。
現在、公益社団法人ACジャパンが「私に違う人生があることすら知らなかった」という支援キャンペーンを行っているが、教育の機会が奪われていると、女性たちは自分たちが差別を受けていること、虐待されていることも知らない。女性だという理由で教育の機会がないことがどれだけ残酷かを知ることができる作品でもある。
だが、セリーには機会が与えられ、力強く自立していく姿と成長が描かれる。ぜひこの映画をただの〝 感動する映画〟としてだけでなく、まだ世界中に残る問題を提起していることも踏まえて見てほしい。
私は、小学校の時、日本でも6~7人に1人が相対的貧困と知りショックを受けた。そして、当事者たちに教育の機会を提供する教育クーポンを配布する団体に出合い、長年寄付を続けている。昨年、起業した会社の売り上げも一部を寄付しているが、まだまだ足りないこともわかっている。この機会に、日本でも同様の問題があることを知っていただけたら、大変うれしく思う。
やっぱり音楽は最高!
上映時間の長い映画だが、魂に届く歌声と迫力ある数々のシーンが、見る側を飽きさせない。
何より音楽は最高だった。個人的に、大好きなR&BのスターであるH.E.Rも出演しており演技派でもある彼女の歌声に感銘を受けた。彼女とUsherがコラボしている本作品の楽曲にも注目だ。セリー役のファンテイジア・バリーノはもともと舞台でセリーを演じていたため文句なし。妹のネティ役は、あの「リトル・マーメイド」で透き通る歌声が美しかったハリー・ベイリー。もちろん音楽監修には、クインシー・ジョーンズも加わっており、映画とは思えない臨場感で、心が揺さぶられる。
カラーパープルの意味
そのまま訳すとただの「紫」であるが、紫のコスモスが咲きほこる中、姉妹が平和に過ごしているシーンに意味があるのではないだろうか。コスモスには、「宇宙」という意味の他に、「乙女の真心」「謙虚」「調和」といった意味もあり、製作陣は、それらも考慮したのではないだろうか。
ネタばれになるので書けないが、数々のミラクルがあり、最後には想像をはるかに超えた救いがある。オリジナルより、人間味にあふれたミスターの姿も必見だ。新旧比べてもより深く楽しめる。
いまだに余韻冷めやらぬ私は、再度、映画館に足を運ぶ予定だ。