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2022.12.13
インタビュー:大ヒット公開中「ラーゲリより愛を込めて」が、通算248本目 TBS映画・アニメ事業部長が語るビジョンとは 後編
2021年より「VISION2030」を掲げ、2030年に向けての中期経営計画を推進しているTBSは、22年に入ってからアニメやグローバルなどの成長事業により積極的な投資を行っている。そこでメディアビジネス局映画・アニメ事業部長の渡辺信也氏に、「VISION2030」の詳細と、今後の映画事業の展望について伺った。
聞き手:宮脇祐介
まとめ:及川静
――まずは、21年に発表された「VISION2030」について、お聞かせいただけますか?
グローバルの持つ意味合いがとても大きくなってきている
TBSグループの「VISION2030」は、放送事業以外の収益を飛躍的に伸ばすことを目指す経営計画です。その中で推進している「EDGE(エッジ)」は、Digital=デジタル分野、Global=海外市場、Experience=エクスペリエンス(ライブ&ライフスタイルなど体験するリアル事業)をExpand(拡大)して、コンテンツ価値の最大化を目指す拡張戦略です。
中でも、グローバルが持つ意味合いはとても大きいと感じています。TBS発のスポーツバラエティー番組「SASUKE」が「Ninja Warrior」として海外各国で人気が爆発していますが、ドラマ・映画やアニメでも世界に通用するコンテンツを作っていこうという流れが、TBSグループ内で生まれつつあると感じています。
――TBSさんは21年に韓国のCJ ENMとの提携もされましたが、これもこういった狙いの一つですよね。韓国はエンターテイメントの成長率はいうまでもなく、アイドルグループだけ見ても00年代はアーティストが韓国から日本に来ていたのに、今は世界を目指す人材が日本から韓国に行く時代になりました。
グローバルという意味で、日本のエンターテイメントが韓国に大きく遅れているのはご承知の通りです。映画というジャンル一つとっても、日本の商業映画は国内でヒットすることが唯一無二の目標で、海外販売といってもアジア圏にとどまる作品が多かったように思います。一方で韓国は早くから映画産業を国が支援して海外進出を目指しており、その長年の努力が「パラサイト 半地下の家族」の米国のアカデミー賞受賞にまで至りました。日韓には非常に大きな差がありますが、昨年「ドライブ・マイ・カー」が世界の映画祭を席巻したことはうれしいニュースですし、グローバルOTT(「Over The Top」インターネット回線によってアクセスできるコンテンツ配信サービスの総称)を通して日本発のドラマシリーズが世界でも見られる時代になりました。そんな中、TBSも海外市場を意識した映像コンテンツの製作に積極的になっています。CJ ENMとの提携の他にも、全世界に向けたハイエンドのコンテンツの企画開発・プロデュースを行うために「THE SEVEN」が設立されたこともTBSグループの海外戦略の一つです。
積極的に海外の映画祭に送り、国外での展開につなげる
日本の映画、特にテレビ局が製作するような商業映画を海外市場に出すのは非常に難しいことですが、僕らの時代に少しでも種まきをしたいと思っています。その第一歩はやはり海外の映画祭に出品して、世界の映画ファンやバイヤーの目に触れるチャンスを増やすことなので、これまで以上に映画祭・マーケットへのエントリーや、各国へのセールスの働きかけに注力するようにしています。
日本で今年3月に公開した「KAPPEI カッペイ」という作品があるのですが、この秋にファンタスティック系の映画祭にエントリーしたところ、「シッチェス・カタロニア国際映画祭」「ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭」といったメジャーどころで上映が決まり、高い評価を受けました。これをきっかけに映画の存在を知ってくれたバイヤーとセールスが進んでいます。こうした知見を蓄積することで、TBS映画とグローバルとの距離を少しでも縮めていけたらと考えています。
――TBSは、監督集団5月(佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗)の「宮松と山下」にも出資されていますが、これも海外を意識してのことですか?
はい、そうです。「宮松と山下」のようなミニシアター系の作品に関わることはめったにないのですが、監督やプロデューサーが強くグローバルを意識していたことに共鳴したのと、配給が「ドライブ・マイ・カー」を手掛けたビターズ・エンドさんだったので、いろいろなことを学ばせていただききたいと思って出資させて頂きました。作品がスペインのサンセバスチャン国際映画祭に招待され、その公式上映に立ち会ってきたのですが、思わぬところで観客のリアクションがあり大きな刺激をもらいました。
――映画事業はコロナで映画館が大打撃を受けた20年以来、年々上向きになってきています。22年は映画総興行収入がコロナ前の水準に戻る見込みもあるとの話もありましたが、実感としてはいかがですか?
劇場用アニメの爆発力、その一方で実写映画は
22年は映画界全体で言いますと、今も大ヒット公開中の「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」や「ONE PIECE FILM RED」など劇場用アニメの爆発力が象徴的な一年だったと思います。TBS作品でもテレビシリーズを2期やった後に劇場用アニメにした「映画 五等分の花嫁」が興収20億超えの大ヒットとなったことはうれしいニュースでした。その一方で実写映画は、興収10億超えの作品の本数が非常に少ない年だったなと。まだしんどいなというのが現場の実感ですが、来年は実写邦画が巻き返す一年になればと思っています。
――映画館で見るべき作品なら戻ってきてくれるのでは?という見方もありますが、本当にそうなのか? 「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(12月16日(金)公開)のヒット具合によって見えてくるかもしれませんが。
そうですね。配信で気軽に映画が楽しめる時代ですから、これからはシアターでの体験価値をどれだけ高められるかが問われているような気がします。「ラーゲリより愛を込めて」も、大きなスクリーンで見る醍醐(だいご)味がある作品になっていると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。
――渡辺さんの部では実写映画だけでなく、アニメも製作されていますよね。
はい、現在はアニメ班がとても活性化しています。今後のアニメ事業を拡大していくにあたり、キャリア採用で2人の即戦力プロデューサーが入社したことに加え、グループ会社でもアニメの人員増強や体制整備が進んでいます。TBSグループのアニメ制作スタジオであるセブン・アークスには今年25億円の増資を行い、業界有数のプロデューサーが加入したことで、人材や企画が集まってくるようになってきました。そんな最中に「映画 五等分の花嫁」が大ヒットしてくれたので、これからのTBSグループのアニメ事業拡大に向けていい弾みになったと思います。
報道局が中心となって立ち上がったドキュメンタリー映画の新ブランド「TBS DOCS」も、多くの作品を製作しています。現在は、日本を代表するクライマー山野井泰史さんを追った「人生クライマー」が公開中で、12月16日にはTBSテレビの特派員である須賀川拓が自ら監督した「戦場記者」が公開されます。
――と見てきますと、現在のTBS映画は、劇場用単体作品、連続ドラマの劇場版、海外市場を意識した作品、ドキュメンタリー、劇場用アニメと、幅が広がっている感じでしょうか?
そうですね。「とにかくコンテンツを作っていくんだ!」という会社のメッセージを、現場が必死に受け止めている感じです。まだまだ人材も足りないですし、課題も多いですが、先にお話ししたように、テレビ局が変革の過渡期にいるのは間違いないので、その大きな波を楽しみながら新しいチャレンジが続けられたらと思います。
■渡辺信也(わたなべ・しんや) 1974年生まれ。東京都出身。98年TBS入社後、バラエティ制作部、編成部に所属した後、2015年より映画・アニメ事業部。21年より映画・アニメ事業部長に。
バラエティ制作部時代の担当番組は「学校へ行こう!MAX」、「明石家さんちゃんねる」「関口宏の東京フレンドパークⅡ」など。編成部時代にWOWOWとの共同制作ドラマ「ダブルフェイス」「MOZU」などを手がける。映画・アニメ事業部では「劇場版MOZU」「罪の声」「トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察」、「新幹線変形ロボ シンカリオン」などのプロデュースに携わる。