「PLAN 75」に出演した磯村勇斗=宮武祐希撮影

「PLAN 75」に出演した磯村勇斗=宮武祐希撮影

2022.6.15

インタビュー:磯村勇斗「PLAN 75」でカンヌデビュー 大学中退もいとわず ブレずに夢を実現

勝田友巳

勝田友巳

「PLAN 75」でも強い印象を残す磯村勇斗。大学をやめ退路を断って演技の世界に飛び込み、がむしゃらに進んで夢をかなえ、なおばく進中だ。初上陸したカンヌ国際映画祭、俳優としての心意気など、飾らない言葉で語ってくれた。
  


 

〝ご褒美〟レッドカーペットで「世界に届いた」実感

5月、「PLAN 75」が出品されたカンヌ国際映画祭に参加するため、スケジュールの合間を縫い、強行軍でフランス渡航。「滞在は1日半ぐらい」という日程で、レッドカーペットを歩き内外メディアの取材を受けた。初夏の地中海もグルメスポットも堪能する間がない忙しさでも、大いに刺激を受けた。
 
「カンヌに着いた夜に映画祭会場近くを散策して、ビーチの大スクリーンで野外上映を楽しんでる人たちを見て『いいな、この感じ』と思い、次の日は取材や上映。どこも見ることができませんでした。それでも、映画を見るためにドレスアップして町を歩く人たちを見て、雰囲気がすごくいいなと思ったし、今までに味わったことのない映画に対する盛り上がりでした」
 
「PLAN 75」の公式上映には早川千絵監督らと一緒に参加し、盛大なスタンディングオベーション。「映画とまっすぐな愛情を持って向き合ってるなと感じました。エンドクレジットが流れてる時に大拍手で、世界の人に届いたと思えて、すごくいい経験をさせてもらいました。ご褒美です」。また新作で? 「ぜひ行きたい、戻りたい」
 
PLAN 75©2022 「PLAN 75」製作委員会 /Urban Factory/Fusee
PLAN 75©2022 「PLAN 75」製作委員会 /Urban Factory/Fusee

挑戦しがいがあった社会派作品

映画に引っ張りだこ。テレビドラマからの流れで劇場版の娯楽作もあれば、独立系の小規模作もと幅広い。それでも「PLAN 75」は特別な体験だった。「ここまで社会的なテーマを扱っている作品はなかったから、挑戦しがいがありました。脚本を読んで体がしびれる感じでした。見終わって考えさせられる、絶妙なところに触れている」
 
75歳になると安楽死を選べる制度「プラン75」が法制化された近未来。社会の高齢化に対する切り札として宣伝されるが、実際には口減らし。演じたヒロムは、制度を担当する誠実な役人だ。
 
「ヒロムは素直な人だと思うんです。映画の前半では、プラン75を仕事として、丁寧かつ親切に推奨している。ヒロム自身も制度の怖さはわかってるものの、そこには蓋(ふた)をして。その姿を、機械的に見せられたらいいなと思っていました」
 
淡々と仕事をこなしていたヒロムはある時、申請者の1人に、長年会っていなかったおじを見つける。1人暮らしのおじの孤独な生活を目にし、彼に亡き父親の面影を見て、心がざわつき始める。「おじさんとの出会いを転機にヒロムは人間的になっていく。ようやく、心の中で思っていたことがあふれて出て、真実を理解する。そこを表現したいなと思っていました」。ヒロムは公務員としての建前を捨てて行動を起こし、映画は終わる。「彼のその後がどうなるかは、観客の想像にお任せします。プラン75には戻らないでしょうね」
 

「PLAN 75」に出演した磯村勇斗


「まず投票を」若い世代が社会を変えるために

早川千絵監督は、16年に起きた障害者施設の入所者殺傷事件に衝撃を受けて構想したという。映画に描かれた〝生産性〟のない存在を不要とする社会は、絵空事とは言い切れない。この作品に出演して、危機感を強くした。
 
「高齢化以外にも、表に出ない問題はたくさんある。やまゆり園の事件も、加害者を生み出してしまった社会そのものが、一つの問題点だと思う。そうなると、自分も遠くから加担してるんじゃないか、行動や言葉が、考え方が、間違ってたんじゃないか、大げさなようだけど、そういうふうに捉えないと、今の日本は変えられないかもしれない」
 
映画は解決策を示さず、自身にも答えがあるわけではない。それでも何かできることはあるはずだという。「なによりまず、選挙に参加すること。若い人が政治や社会に関心を持たないと、衰退するし怖い世の中になっていく。ぼくら俳優のような発信できる仕事なら、投票に行こうよと呼びかけることもできる」
 
PLAN 75©2022 「PLAN 75」製作委員会 /Urban Factory/Fusee

根拠のない自信に支えられ、がむしゃらに

9月には30歳。高校時代に地元の劇団に所属し、大学に進むものの目指すは俳優と中退した。「俳優をやると決めて10年以上、真っすぐ、ブレずにやってきました。大学では演劇科に入ったんですけど、2年でやめて。大学にいては遅れてしまうと思ったんです」。劇団に所属しながら機会をうかがい、やがて事務所に所属する。
 
「あの頃の熱量、今よりも相当すごかった。俳優になって有名になってやると、メラメラしたものがあったんですよね。どうしてあんなにがむしゃらだったのか、ぼく自身も分からない。ただ日々、退屈していた、自分の人生に」。不安は? 「それがなかったんです。芝居が好きで、自分ならやれるという根拠のない自信と、見てもいないのに諦めるのはダメだろと」
 
15年、オーディションでつかんだ「仮面ライダーゴースト」のライダーの1人、ネクロムを演じて認知され、道が広がった。子供向けのヒーローアクションでも、新しい演技を意識したという。
 
「〝ライダー芝居〟みたいなのがあるんです。なにか見つけて『あっ』という時に、ちょっと体で表現するみたいな。お子さんが見てるからそれも分かるんですけど、ぼくはフラットにやることを課題にしていました。だからライダーが終わってからも、大きく困ることはなかったです」。ただ、発声はクセがついていたとか。「後のドラマで『磯村くん、かっこつけないでいいから』と何度も怒られました。抜くのに時間かかりました」
 
「PLAN 75」に出演した磯村勇斗

30代は変化の年

夢中で走り続け、夢を実現させた。これからは若さのエネルギーに経験値も加わり、円熟に向かっていく。
 
「8年でここまで、速かったですね。人に助けてもらって支えられてきたのを感じます。目標をつかんだので、それをどう進化させていくか。30代は、変化の年になるかな。俳優も発信しないといけない時代になって、作る側もいいと思うし、海外で映画の作り方を学んでみたい、現場を見てみたいとも思う。今はたくさんの作品に参加してありがたい一方で、多すぎるかなと自問自答してるとこもあります」
 
邦洋問わず映画を見て、若い監督にも注目している。「彼らの作品にも出てみたい」と目を輝かせた。しばらくは疾走が続きそうだ。
 
「PLAN 75」は6月17日全国で公開。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

宮武祐希

毎日新聞写真部カメラマン