第76回毎日映画コンクール 脚本賞 吉田恵輔「空白」

第76回毎日映画コンクール 脚本賞 吉田恵輔「空白」

2022.3.01

脚本賞 吉田恵輔「空白」 やっと認めてもらえた

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

オリジナル脚本、監督貫くスタイル

 
「空白」で脚本賞の吉田恵輔。自身の脚本を自ら監督というスタイルは一貫し、ほとんどがオリジナル脚本。2021年には「BLUE/ブルー」も公開され、こちらでも受賞が相次いだ。ジワジワと高まった評価が一気にはじけた。「今までわりと、賞に選ばれてないんですよね。今回いろいろいただいて、やっと認めてもらえた感がありました。やってることは変わんないけどなと思いながら」
 
映コンでは「空白」が、作品部門や監督賞の候補にもなったが、脚本賞がいちばん重要だという。「1人でホン書いてると急に『これ、くだらなくね? 誰が喜ぶんだよ』と思っちゃう瞬間があるんですよ。でも賞に選ばれて『今はつまんないけど、書いてけば形になるんだろうな』と少し余裕が出てきた。いいホンがあって、いい役者がそろえば、いい作品なる。ホンが悪かったら、映画はどうにもなんない。6割以上ホンありきだと思う」

 

根っこでは世の中に大声をあげている

 
「空白」は罪と許し、不寛容、社会の分断など、今日的テーマを心理劇の中に盛り込んだ。脚本を競作してきた友人の死が、着想のきっかけという。「友だちが死んだ後、モヤモヤした気持ちと折り合えなくて、折り合いがつけられない男の話を書こうと思った」という。そこに、実際に起きた事件や周囲への問題意識が加えられる。「テーマがあるわけじゃないんだけど、言いたいことが集まってくると、結果的にテーマになってるかな。普段は政治に腹は立てないよと言ってたんだけど、『空白』を見た人から『めちゃめちゃ怒ってんじゃん、根っこが世の中に大声あげてる人だね』と言われました」
 
キャラクターの造形が魅力的だ。「空白」では、娘を事故で亡くして激怒する添田、原因を作ったと自分を責める青柳、青柳の味方だが一方的に正論を主張する草加部ら、クセは強くても根っこはいかにもいそうな人物たち。特に草加部は、正しいことを言っているのに押しつけがましく、否定できないが共感もしがたい。掘り下げる作業は一人芝居なのだという。「書きながら、キャラクターにセリフを言わせてる。演技のワークショップで、参加者にいろんな演じ方をさせるみたいに。草加部も最初は正論ばかり言うつまらない人物だったのが、頭の中でエチュードをしてたら面白くなってきた。青柳から見ても、イヤだなという正しさね」

 

人間は捨てたもんじゃない いとおしいよね

 
専門学校を卒業して、塚本晋也監督の現場に照明担当として参加する。脚本を書いて機会を待ったがなかなか芽が出ず、2006年、自身の脚本を監督した「なま夏」でデビュー。これまでのほとんどがオリジナル脚本だ。「塚本監督は自分で脚本書いてて、それが監督というものの姿だった。他人の脚本は、誰かが撮るならいいホンでも、自分ではムリ。セリフ回しや語尾一つでひっかかっちゃう」
 
「ヒメアノ~ル」「犬猫」など、善も悪も併せ持つ人間の複雑さを、皮肉な視点で描いてきた。「人間の長所も短所も、同じだけ描きたいよね。偏ってる人はいないと思う。屈折してる人の方が魅力的だし。それと、自分が撮るなら、最後に光みたいなものが見たい。捨てたもんじゃないよねって。嫌なものばかり描いてるみたいだけど、人間ってどうしようもないよね、けどいとおしい。そこに落とし込むことに、熱量が動く」
 

次回は賞を返せと言われるようなブラックコメディーを

誰にでも分かるような大作に、あまり興味はないという。かつてメジャーの作品も手がけたが、窮屈な思いをした。コンスタントに中規模の作品を撮り続けている。「監督の仕事はいい映画を作ることだけど、どう生き残るかも戦略的に考える。大きな予算ならギャラもいいだろうけど、雇われの仕事は将来的には損だと思う。いろんなしがらみを考えたら、中規模の作品で認められた方がいい」
 
作風の特徴は強烈なブラックユーモアだが、「空白」は意識的に笑いを封じた。「賞を取らないんですよ、笑いは。考察したくなるほうが評価されやすい。ちょっと狙ったところもありました。でも次回は、賞を返せと言われるようなブラックコメディーです」
 

空白

スーパーの店長・青柳(松坂桃李)が女子中学生の万引きを目撃、後を追うと中学生が道路に飛び出し車にひかれて死んでしまう。中学生の父親・添田(古田新太)は、常軌を逸した執拗(しつよう)さで青柳を責め続ける。争いの様子がネットやテレビでさらされ、双方に非難が浴びせられるようになった。青柳は次第に追い詰められていく。オリジナルの脚本で、不寛容な時代の罪と許しを描く。

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部

カメラマン
ひとしねま

佐々木順一

ささき・じゅんいち 毎日新聞写真部カメラマン