騙し絵の牙  ©2021「騙し絵の牙」製作委員会

騙し絵の牙 ©2021「騙し絵の牙」製作委員会

2021.3.25

騙し絵の牙

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)。

大手出版社「薫風社」で創業者一族の社長が急逝。改革派の東松(とうまつ)専務(佐藤浩市)と文芸誌重視の宮藤(くどう)常務(佐野史郎)による陰謀渦巻く権力争いが勃発する。部数がジリ貧で廃刊の危機に立たされたカルチャー誌編集長、速水(大泉洋)は文芸誌編集者の高野(松岡茉優)らを巻き込み、奇策で生き残りを画策する。

雑誌の休刊、町本屋の閉鎖など出版不況のリアルとその半歩先をちらつかせ、文芸誌や文学賞への皮肉もたっぷり。エピソードの一つ一つは珍しくないが、絶妙のテンポと次々と物語をひっくり返す構成の巧みさ、大胆な省略で飽きる時間を作らせない。スピーディーな展開と大泉、松岡らが醸し出す明るさ、さらに大作家の國村隼、文芸評論家の小林聡美らが笑いを誘い、新人作家の宮沢氷魚や謎の作家リリー・フランキーもいい味を出している。終盤のだまし合いにはやや無理感もあるが、ご愛嬌(あいきょう)。後に残るものはないが、邦画ではまれなスカッと楽しめる快作だ。吉田大八監督。1時間53分。東京・丸の内ピカデリー、大阪・梅田ブルク7ほか。(鈴)

ここに注目

大泉洋から文才のあるモデル役の池田エライザまで見事なキャスティング。先読みできない脚本とテンポのいい編集に転がされ、しっかりだまされた。出版業界の出来事がこんなに大きなニュースになるものだろうか?と少し違和感を感じる演出は、作り手の望みなのかもしれない。(細)