「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」

「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」©︎2025 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会

2025.1.21

「リング」×「イシナガキクエ」!Jホラーの原点回帰にして新機軸「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」を分析

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

筆者:

SYO

SYO

深夜帯にもかかわらず人気を博したフェイクドキュメンタリー番組「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」の演出を手掛けて注目を浴びる近藤亮太が、第2回日本ホラー映画大賞(2022年)の大賞を受賞した短編映画を自ら長編映画化した「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」。24年の第37回東京国際映画祭・アジアの未来部門での上映に続き、1月24日より劇場公開を迎える。すでにホラーファンの間では熱視線を集めており、映画化も発表された「近畿地方のある場所について」の著者・背筋による短編小説「未必の故意」が入場特典として配布されることも話題となった。


失踪事件の真相を突き止めようとし

本作は、一言でいうなれば「弟が失踪する瞬間を収めたビデオテープが母親から送られてきた」物語。ホラーに限らず、観賞欲をかき立てる作品は「シンプルに説明でき、企画性が強い」ものが多いが、この一文だけで「どういうこと!?」となるのではないか。もう少し踏み込んだあらすじを紹介すると、こうだ。

幼少期、一緒に遊んでいた弟が失踪してしまった過去を引きずり、現在は行方不明者を捜すボランティアを行う敬太(杉田雷麟)。彼のもとにある日、母親から弟が失踪した瞬間を収めた古いビデオテープが送られてくる。霊感のある同居人・司(平井亜門)の忠告を聞かず、敬太は失踪事件の真相を突き止めようとし……。
 

ホラー映画製作者としての美学

こうして見るとやはり物語としての〝ツカミ〟が抜群にうまい印象だが、「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」の魅力は、単にストーリーの引力だけではない。「CGなし」「特殊メークなし」「ジャンプスケアなし」といった〝 縛り〟も大きな特徴だ。特に三つ目の「ジャンプスケア(大きな音などで観客を驚かせる演出)を行わない」には、ホラー映画製作者としての美学が感じられる。

本作は冒頭から末尾まで徹底的に余白を重視しており、しんしんとした静けさの恐怖に包まれる低温ホラー。出演者が悲鳴を上げたり、恐怖顔であおったりするようなアグレッシブ寄りの演出も行わない。観客が能動的に感じ取ることで恐怖が倍増していくような知的さも備えており、昨今のホラーのトレンドとは一線を画している。第1回日本ホラー映画大賞受賞作「みなに幸あれ」は衝撃的なSDGsホラーだったが、続く本作も新時代の日本ホラーを背負っていく気概を感じさせる。

原点回帰な側面が感じられる

そもそも現在のJホラーの基盤は、「リング」や「呪怨」「仄暗い水の底から」といった1990~00年代の作品から来ている(黒沢清監督の名作「回路」は「リング」人気に便乗する形で企画が動き出したという)。バイオレンス寄りのアクティブかつ物理的な恐怖が顕著だった西洋のホラーに対して、よりウエットな〝湿度〟や、精神的にじわじわと追い込んでいくような〝冷たい〟恐怖が特徴的だった。

しかしその後、興行的なウケの良さもあってか、いわゆるお化け屋敷的なアトラクション要素を備えたものへと移っていく。ジャンプスケア演出はむしろ必須事項となり、かつてのJホラーと西洋ホラーとのミックス的な内容の作品が増えてきた。あくまでざっくりとした所見ではあるが、そうした系譜を見るに、「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」には原点回帰な側面が感じられる。「リング」と同じくビデオテープを題材にしている点、近藤監督が、「リング」や「女優霊」の脚本家であり映画監督の高橋洋の教え子である点からみても、明白だろう。

あおらない方がかえって怖い

ただ興味深いのは、「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」における〝湿度〟の扱い方。「リング」や「呪怨」の根底にあり、日本の怪談の特徴ともいえる〝目に見えない情念や怨念(おんねん)〟は確かに本作にも登場するが、よりフラットでドライな距離感を保っている。冷静かつ客観的に恐怖を描いていくということは、情に流されることもない。登場人物がどうなってもただただ観察する筋運びや映し出し方は回避不可能などうしようもなさ・絶望感を観客に感じさせ、あおらない方がかえって怖い絶妙な案配を創り出している。
 

Jホラーの新局面

「イシナガキクエを探しています」や「飯沼一家に謝罪します」にも通じる、現実感の中に生じる違和感といういびつな恐怖を緻密に構築した近藤監督。「みなに幸あれ」の下津優太監督や、黒沢清監督の中編「Chime」に影響を与えたという酒井善三監督(「カウンセラー」「フィクショナル」ほか)、さらには彼の同志ともいえる「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」を共に作り上げたTXQ FICTIONのメンバー含めて、新たなクリエーターたちによるJホラーの新局面に注目したい。

関連記事

この記事の写真を見る

  • 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」
さらに写真を見る(合計1枚)