誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.11.30
だれもが主役になれるクリスマス「ラブ・アクチュアリー」 優しさにあふれた勇気の物語
「ラブ・アクチュアリー」、日本語に訳すると〝愛は至るところに〟タイトルの通り、この映画では人生のあらゆる場面にひそむ〝愛〟がテーマだ。ただ私は、愛に関する一場面には必ず他のある要素も関係していると発見した。それは〝勇気〟だ。これは人々の勇気の物語である。
人生のアドベントカレンダー
舞台は、クリスマスまであと5週間のイギリス。登場するのは、好きな人が結婚してしまった人、年老いたロックシンガー、孤独な首相、夫婦生活の危機に瀕(ひん)する熟年夫婦などなどなど。それぞれバラバラの人生を生きる他人同士。しかし共通するのはクリスマスをきっかけに勇気ある行動を起こしていくところだ。そして行動によって人生が、まるでアドベントカレンダーをめくるように……クリスマスに向かって急加速しながら展開してゆく。
ロマンチックなだけじゃない
そして、もうひとつ、この映画の魅力はドラマチックでありながら意外と現実的なところだ。昔、私の知人でクリスマスの時期になると、街のテンションと自分の気持ちのギャップがありすぎてつらくなるという話をしている人がいた。確かに、クリスマスシーズンの街は、なにか特別なことが起こりそうな独特の空気に包まれる。だからと言ってみんながみんなロマンチックな空気に包まれているわけではない。誰かの楽しみのために、クリスマスは働きづめ……みたいな人も大勢いる。
そして、この映画もそんなリアリティーにあふれている。出てくる人たちはクリスマスに特別な計画がある人なんかほとんどいない。2000年代という時代背景もあるのか少々下世話だったりロマンチックではない場面もたくさんだ。しかし、だからこそ、この映画にはクリスマスの力を信じられなくなった人々にも膝をついて目線を合わせ、手を差し伸べてくれる優しさがあると思った。
クリスマスはあなたが主役
そしてその〝優しさ〟を最も感じたセリフを紹介したい。「All I want for Christmas is you」音読すればきっとどこかで聞いたことのあるフレーズだろう。「クリスマスに欲しいのはあなただけ」という意味だ。だが私はなんだか「クリスマスはあなたが主役よ」と言われているような気がして、泣いた。
思えば、かつて、誰しもがサンタを待つ子どもだった。だが 大人になるにつれて、いつの間にかワクワクする気持ちも薄れ、子どもたちや自分よりももっと若い世代のためのイベントなのだと思うようになった。私はクリスマスを楽しむグループには属さない。いつのまにか自分で自分を除外していたのかもしれない。しかし決してそうではないとこの映画は教えてくれる。待つんじゃなくて、行動を起こせば、運命は動き始める。好きな人に好きと伝える。たとえその人が誰かの妻になってしまったとしても。たとえ転校してしまうとしても。たとえ住んでいる国が違っても。たとえ社会的身分に差があったとしても。たとえからだの性別が同じでも。誰かのためにがんばるクリスマスも素晴らしいけれど、自分が幸せになる選択をすることが大切なのだ……だってクリスマスだから(これも好きなセリフである)。
映画が気づかせてくれる本当の可能性
さて、この作品を見終わった今、クリスマスへのカウントダウンが始まるころだ。つい最近秋が始まったような感覚があり、正直、実感は湧かない。ただ、クリスマスは自分でつくっていくものだ。子どもの頃のように大きなケーキを作って好きなお菓子をデコレーションするのもいい。行きたいけど行けないと勝手に決めていた場所に思い切って旅に出るのもいい。子ども時代を共に過ごした友人たちに、クリスマスの夢を見せてくれた両親に、いつも一緒に仕事をしている事務所の仲間にありがとうの手紙を書くのもいい。思い返せばこの映画に出てくる人たちとどこか重なる人たちが私の周りにも大勢いる。そんな大切な人たちとクリスマスを一緒につくれたらいいな。
大人になった私は今、この映画を通してクリスマスの本当の可能性に気づかされた。あなたが主役になり得る愛と〝勇気〟の物語「ラブ・アクチュアリー」。4Kリマスター版をクリスマス前のこの時期にぜひ劇場で……。