これからのビジョンを語るTBS映画・アニメ事業部長の渡辺信也氏

これからのビジョンを語るTBS映画・アニメ事業部長の渡辺信也氏

2022.12.12

 インタビュー:大ヒット公開中「ラーゲリより愛を込めて」が、通算248本目 TBS映画・アニメ事業部長が語るビジョンとは 前編

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

宮脇祐介

宮脇祐介

及川静

及川静

昨今、配信アプリなどの定着から国内地上波各局の映画やアニメに対する姿勢が大きく変わりつつある。そのなかでも2021年より「VISION2030」を掲げ、2030年に向けての中期経営計画を推進しているTBSは、22年に入ってから成長事業により積極的な投資を行っている。そこでメディアビジネス局、映画・アニメ事業部長の渡辺信也氏に、現在のTBSの映画事業に対する取り組みと今後の見通しについてインタビューした内容を前後編にわけて届ける。
 
聞き手:宮脇祐介
まとめ:及川静

「ラーゲリより愛を込めて」が、通算248本目

――そもそものところからお伺いしたいのですが、TBSが製作された最初の映画は何だったんですか?
 
手元の資料によれば、TBSが初めて製作に関わった映画は、1979年に公開された木下恵介監督の「衝動殺人 息子よ」だそうです。以来40年を超える歴史の中で、TBSの映画事業の在り方も徐々に変わってきましたが、先輩たちが一本一本作品を積み上げてきてくれました。この12月9日に公開になった「ラーゲリより愛を込めて」が、通算248本目のTBS製作映画になります。
 
――テレビ局における映画やアニメビジネスの立ち位置は、どう変わってきていますか?
 
テレビ局の本来のビジネスモデルは地上波のCM枠から広告収入を得るものですから、番組が高い視聴率を取ることが会社の収益に大きく直結してきました。私も映画・アニメ事業部に異動する前は、バラエティ制作部や編成部といった地上波に関わる部署に所属していましたが、当時関わっていた番組の視聴率に一喜一憂していたことを覚えています。
それが近年、少し様子が変わってきました。もちろん今もテレビ局の事業は地上波を中心にまわっていますが、広告収入の落ち込みから、映画やアニメ、配信、海外販売、商品化といった2次利用セクションの放送外収入に期待される度合いが格段に高まってきたと感じています。
そんな中、映画・アニメ事業部でも、連続ドラマの映画化などを含めてこれまで以上に地上波との連動を強化しようとしていますし、アニメも人員・体制を増強して事業を拡大しようとしています。
 

テレビも変革の過渡期

――TBSグループの中期経営計画や「VISION2030」の影響もあるのでしょうか?
 
そうだと思います。21年に発表された「TBSグループVISION2030」では、放送事業以外の収益を飛躍的に伸ばすことがうたわれています。最近、1人暮らしの若者の中には家にテレビが無い方も少なくないと聞きますが、長くエンターテインメント業界の中心にあったテレビも変革の過渡期にあります。グローバルプラットフォームで海外のコンテンツも気軽に楽しめるようになり、ライバルも増えてきました。そんな中でTBSグループは、優良なコンテンツを放送だけでなく、デジタルやグローバルに広げることで価値の最大化を図ろうとしています。映画やアニメといったジャンルも、その戦略の中核に位置していると思います。
 
――おそらくここ10年ほどで新聞社に起こったことが、今、テレビ界で起こっているのでしょうね。
 
そうかもしれません。どんなビジネスも新しいものに取って代わられるのは世の常ですが、テレビ界には今、大きな波が来ていると感じています。
 

TBSグループ一丸となって製作された「ラーゲリより愛を込めて」

――そんななかで、大ヒット公開中の「ラーゲリより愛を込めて」は、TBSグループ一丸となって製作されているイメージがあります。
 
そうですね。年間、数本製作しているTBS映画のなかでも、「ラーゲリより愛を込めて」はTBSテレビとTBSスパークルが共同幹事をつとめる初めての作品で、多くのJNN系列局に出資頂いたこともあり非常に力が入っています。プロモーションでは、社内各所から熱い応援をしてもらっています、
本作が描いているシベリア抑留はTBSの報道でも度々取り上げられていますが、シベリアからの帰還が完了した1957年から既に65年が経過し、抑留経験者の多くが亡くなっていく今、この忘れてはいけない記憶を世に残すべく製作しました。製作発表後にはシベリア抑留経験者のご家族からの資料提供や、応援・感謝の手紙が届くなど、映画への関心や期待を感じています。

 
――TBSさんは映画単独の作品と、連続ドラマから映画になる作品が作られていますね。
 
そうですね、「ラーゲリ~」のような一から作り上げた映画単独作品もあまたある一方で、テレビ局にしかできないコンテンツとして、連続ドラマの劇場版も数多く作られてきました。
映画単独作品にはさまざまなジャンルのものがありますが、「余命1ヶ月の花嫁」「抱きしめたい」「8年越しの花嫁」など、平野隆プロデューサーが手掛けてきた、命に関わる実話を原作にした一連の作品群は、TBS映画のカラーの一つになっていると思いますし、「ラーゲリ」もその系譜に位置する作品ではないでしょうか。
連続ドラマの劇場版では、歴代のTBS映画で最高興収を記録した「ROOKIES-卒業-」をはじめ、「花より男子ファイナル」「SPEC~結~」「木更津キャッツアイ ワールドシリーズ」など数多くのヒット作が生まれてきました。昨年末に公開した「 99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」もそうですし、来年4月公開の劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」も日曜劇場のヒットドラマを映画化するものです。
これからも、映画単独作品と連続ドラマの映画化、両軸を大事にしていきたいと思います。
 

クリエーターファーストの企業風土

――TBSらしさとは何だと思いますか?
 
TBSはコンテンツクリエーターを大事にする会社だと感じています。「VISION2030」でも、クリエーターの育成や獲得、クリエーターが働きやすい環境づくり、クリエーティブを尊重する風土の醸成がうたわれています。
先ほど挙げた連続ドラマの劇場版のタイトル群を見ていても、ヒットメーカーであるプロデューサーや監督の顔が見えてくる。作り手の顔が見える会社といえるかもしれませんね。このクリエーターファーストの企業風土が、これからの後輩たちにも受け継がれていけば良いなと思います。
 
――「ラーゲリ」の平野プロデューサーもその一人ですし、瀬々敬久監督とのコンビは素晴らしいですよね。
 
平野さんと瀬々さんのタッグは、プロデュースワークと監督の作家性が絶妙に相まって、「64−ロクヨン−」「糸」など素晴らしい作品を生んできました。「ラーゲリより愛を込めて」はこのチームの集大成ともいえるほどの完成度だと思います。
先輩たちに続いて、TBSの若いプロデューサーたちにも、自分が信じる監督と出会ってたくさんの作品を作っていってほしいと思います。
 
――お話はまだまだ尽きません。後半では、「TBSグループVISION2030」のより詳細な部分と、そのなかの一つであるグローバル化について伺いたいと思います。
 
 
■渡辺信也(わたなべ・しんや) 1974年生まれ。東京都出身。98年TBS入社後、バラエティ制作部、編成部に所属した後、2015年より映画・アニメ事業部。21年より映画・アニメ事業部長に。
バラエティ制作部時代の担当番組は「学校へ行こう!MAX」「明石家さんちゃんねる」「関口宏の東京フレンドパークⅡ」など。編成部時代にWOWOWとの共同制作ドラマ「ダブルフェイス」「MOZU」などを手がける。映画・アニメ事業部では「劇場版MOZU」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」「罪の声」「トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察」「新幹線変形ロボ シンカリオン」のプロデュースに携わる。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

ライター
及川静

及川静

おいかわ・しずか 北海道生まれ、神奈川県育ち。
エンターテインメント系ライター
編集プロダクションを経て、1998年よりフリーの編集ライターに。雑誌「ザテレビジョン」(KADOKAWA)、「日経エンタテインメント!海外ドラマ スペシャル」(日経BP)などで執筆。WEBザテレビジョン「連載:坂東龍汰の推しごとパパラッチ」、Walkerplus「♡さゆりの超節約ごはん」を担当中。

カメラマン
米湊航大

米湊航大

(こみなとこうだい)
2002年8月26日福岡県太宰府市生まれ。
大学在学中から写真を撮り始め、人物を中心に撮影している。
生粋のアナログオタクで、フィルムカメラで撮影。
初対面の人に声をかけ、知り合いになる過程を撮影するプロジェクトを行い、今まで30人近くを撮影してきた。
その撮影した写真をプリントし被写体に手紙付きで郵送している。
写真を受け取った人が、形として記憶を残してもらうような、SNS社会に真っ向から歯向かう取り組みを行っている。