毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.7.22
この1本:「島守の塔」 「生きろ」今に響く叫び
第二次世界大戦は、これまで無数の映画の題材となってきたが、ほとんどは市井の人々か、戦闘に参加した将兵の視点で描かれてきた。本作は、沖縄県知事として赴任した島田叡(あきら)と県警察部長の荒井退造が主人公。沖縄戦の中で葛藤し、県民の命を守ろうとした2人の官僚を描く。
戦況が悪化する1945年1月、島田(萩原聖人)は、死を覚悟して沖縄に赴任した。連合国軍の上陸を前に、荒井(村上淳)と共に県民の生活を守り、戦闘に巻き込まない方策を探ろうとする。
しかし島田は、軍司令部の命令と、県民を守るという使命感との間で苦闘する。県民の食糧確保に奔走し、息抜きを求める庶民に理解を示す一方、少年たちを鉄血勤皇隊として動員せよとの命令に逆らえず、軍の作戦変更で疎開先を二転三転させ、結局死地に送り込む。荒井もまた、疎開民を送り出した対馬丸が撃沈され、多くの犠牲者を出してしまう。誠意を尽くそうとして状況にのまれ、無念のうちに最期を迎えるのである。
映画が描くように、2人は良心的官僚に違いないが、結果的に軍に加担した責任者でもある。一方的に英雄として持ち上げるのもためらわれる。
ただ、「死ね」と迫る国や軍に対し、「生きろ」と叫び続けた島田の思いは今に通じる。映画で、知事付となった軍国少女の凛(吉岡里帆)が、島田と行動を共にする。島田の自由な振る舞いに反発し続けるが、最後は島田に押されて生き残る。長い年月を経て、島田の碑に手を合わせ「生きましたよ」とつぶやく凛の万感の思いが胸に迫る。
新型コロナウイルス禍で撮影は開始直後に中断。関係者の熱意で1年8カ月後に再開し、完成にこぎ着けた。沖縄復帰から50年、ウクライナで戦闘が続く中、戦争を伝えなければという思いは重く響く。五十嵐匠監督。2時間11分。東京・シネスイッチ銀座。大阪・梅田ブルク7(8月26日)ほか順次全国でも。(勝)
異論あり
島田知事や荒井警察部長ら行政のリーダーの視点を交えて沖縄戦を描いた貴重な作品。ただ、あれもこれもと総花的になった感もあり、教科書的に断片を集約したように感じた。軍部も含め一見職務を全うした人たちばかりが登場するが、なぜ凄惨(せいさん)な地になってしまったのかの言及が乏しく、がまでの日本軍による一般人殺害など軍の醜態や悲惨な場面も抑制。島田知事や行政の判断で多くの命が救われたのは分かるが、その過程や背景も見えにくい。俳優陣は熱演、特に「ひめゆりの塔」にも出演した香川京子は凛のその後を感じて絶品。(鈴)
技あり
沖縄戦の映画は、今井正監督・中尾駿一郎撮影監督による「ひめゆりの塔」(1953年)以来、ベテランたちが個性を生かして撮っている。共通する苦心は光源の選択。家を追われた住民も敗走する兵隊も、暗い密林から光のないがまに逃げ込むしかないからだ。釘宮慎治撮影監督も工夫した。がまを利用した野戦病院では、ろうそくなどの光源を場面で見せ、「解散」と宣告された学徒たちが動揺の果てに「制服を着よう」と思いつく場面は、木漏れ日が反射したような光を足した。解放の喜びをセーラー服の白線に見た。(渡)