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2024.11.08
坂口健太郎のアジア圏まで広がる認知・人気 2024年は配信映画・ドラマで縦横無尽な活躍ぶり
2024年に俳優デビュー10周年を迎えた坂口健太郎にとって、24年は配信の年となった。2月にNetflix映画「パレード」が配信され、9月には韓国の動画配信サービスCoupang Playのオリジナルドラマ「愛のあとにくるもの」(日本ではPrime Videoで配信)、11月にはNetflixシリーズ「さよならのつづき」が配信。劇場映画に地上波ドラマにCMにと引っ張りだこの人気俳優だけに、このラインアップは驚きとともに配信サービスの勢いを感じさせる。
特に「愛のあとにくるもの」は近年隆盛の日韓コラボレーションという意味でも、今後の流れを占う1本といえそうだ。さらにいえば、「さよならのつづき」は先日開催された第29回釜山国際映画祭・オンスクリーン部門に正式招待。21年に新設された配信ドラマ向けの部門であり、日本作品が正式招待されるのは初。この2作を契機に、坂口の認知・人気が韓国をはじめとするアジア圏でますます広がってゆくことだろう。
「愛のあとにくるもの」より © 2024 Coupang Play All Rights Reserved
Prime Videoにて見放題独占配信中
「愛のあとにくるもの」で日韓コラボ
坂口健太郎といえば、柔らかい雰囲気の中にもどこか陰のある儚(はかな)げな青年――というパブリックイメージがあるのではないか。実際、本人も試練とセットのラブストーリーに出演してきた歴史を振り返りながら「とあるプロデューサーに〝背負わせたくなる〟と言われた」と語っている。ただその中で、特に近年は多彩な役柄に挑んでいる印象を受ける。
例えば、原田眞人監督の映画「ヘルドッグス」では、感情が壊れたヤクザの組員にふんし、相棒役の岡田准一と共に切れ味鋭いアクションを披露。第46回日本アカデミー賞の優秀助演男優賞も受賞した。「サイド バイ サイド 隣にいる人」では、その場にいない人の〝想(おも)い〟が見える青年にふんし、自身も人であって人でないような幽玄な雰囲気を醸し出していた。
前述の「パレード」では、未練を抱えてはざまの世界にとどまる死者を演じている。韓国のチームに単身飛び込んだ「愛のあとにくるもの」では作家志望の青年の過去と現在でギャップを生み出し、「さよならのつづき」では心臓移植手術を受けた結果、ドナーの記憶や趣味嗜好(しこう)が自分の中に流れ込んでくる大学職員という難役にチャレンジした。地上波ドラマにおいても、「Dr.チョコレート」「CODE-願いの代償-」と連続2クール主演を務めるなど、大車輪の活躍を見せている。
「さよならのつづき」より
「さよならのつづき」は脚本開発段階から参加、難役にも挑んだ
なお、「愛のあとにくるもの」では、韓国作品ならではの愛情表現に驚いたという坂口。「愛している」とはっきり口に出す人物像と向き合いながら、どうなじませていくかを考えたそうだ。そして「さよならのつづき」では製作発表時に「自分の中にもう一つの心がある、なんて難しい物語だろうと思いました」とコメントを寄せた坂口。彼が同作で演じた成瀬は、心臓を提供した雄介(生田斗真)の特徴を宿していく。
例えば苦手だったコーヒーが飲めるようになったり、ピアノが弾けるようになったりといったふうに。自身が別の誰かになっていくような違和感を覚えるなか、偶然出会った雄介の婚約者・さえ子(有村架純)にひかれていくのだが、成瀬には愛する妻・ミキ(中村ゆり)がおり、自身の本心の所在が分からなくなっていく――という複雑な人間模様が展開。
その状態を芝居で表現すること自体難易度が高く、撮影を終えたいまでも「絶対的な正解は自分の中にはない」と語っていた。俳優・坂口健太郎の新境地といえる作品になりそうだ。
ちなみに坂口への当て書きだった「サイド バイ サイド」や有村架純と共演した「さよならのつづき」では、脚本開発段階から参加したという。近年、俳優のプロデュース/監督作品を含めた新たな動きが活発だが、そうした側面からみても坂口のフレキシブルな動き方はニュースタンダードの系譜にあるといえるかもしれない。
作品的にも役柄的にも新章に突入した感のある坂口が今後、何を選ぶのか――日本映画界/俳優界のトレンドの一翼を担う彼の動向に熱視線を注いでいる方は、少なくないはずだ。