「ナイトメア・アリー」

「ナイトメア・アリー」 ©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

2022.3.24

特選掘り出し!:「ナイトメア・アリー」 極彩色の暗黒を妖しく

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督が、怪物も幽霊も出てこないダークな人間ドラマに挑戦。1947年の「悪魔の往(い)く町」の原作にもなったウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説の映画化である。

流れ者のスタン(ブラッドリー・クーパー)が、怪しげなカーニバル一座にさまよい込み、読心術を体得する。やがて美しい娘モリー(ルーニー・マーラ)を連れて一座を抜け出したスタンは、ショービジネスで成功を収めるが、謎めいた心理学者リリス(ケイト・ブランシェット)と出会ったことで運命を狂わされていく。

野心に満ちた主人公の栄華と転落、欲望と裏切りの物語。90分もあれば十分語れるはずのプロットなのだが、デル・トロ監督は全編に豪華な美術を配し、撮影の技巧を凝らして〝極彩色のフィルムノワール〟というべき耽美(たんび)的な映像世界を構築した。とりわけ獣人ショーや読心術を念入りに見せる前半は、デル・トロらしい異形のものへの憧憬(しょうけい)を感じさせる。第2幕に登場するファムファタル役のブランシェットが出色。妖気漂う演技は、いかなる視覚効果より魅惑的で恐ろしい。2時間30分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

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