毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.9.09
浜の朝日の嘘つきどもと
福島県南相馬市の映画館「朝日座」。支配人の森田保造(柳家喬太郎)は原発事故やコロナ禍で経営が行き詰まり閉館を余儀なくされる。そこに突然、茂木莉子(高畑充希)と名乗る女性がやってきて「潰れたら困る」と立て直しに向けて奔走し始める。
映画館の存亡をめぐり莉子らが右往左往する物語に、莉子と恩師の田中茉莉子先生(大久保佳代子)との師弟愛を絡ませた。親友であり、大人と子供のようでもある2人の疑似家族の関係がさわやかで心地よい。不器用だけど実直で世の中とうまく折り合えない男女に優しい目を向けてきたタナダユキ監督らしさが全開。全編を通じて、緩いけどゆるぎのない映画愛にあふれている。終盤はセリフも過多で夢見心地にも見えるが、莉子や先生、映画ファンの願いの結晶だろう。喬太郎師匠ののんびりとした情感の味わい、大久保のだらしないけど愛情深い生き方、そして映画館愛に浸るべし。登場人物のフルネームにも映画への敬意があふれている。1時間54分。東京・シネスイッチ銀座、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)
ここに注目
これは、生まれ持ったものではなく、自分の力で、今日食べる米、大切なもの、愛する人、愛される人を見つけてそれを守った、一人の女性のかっこいい人生の物語だった。茉莉子先生をこんなにもチャーミングで奥行きのある人間にした大久保の、女優としての力を思い知った。(久)