誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.3.21
奇跡の再建を果たした映画館で息ができないくらい泣いた「BLUE GIANT」
先日行われた第47回日本アカデミー賞にて、最優秀音楽賞に輝いた「BLUE GIANT」の配信がいよいよ始まった。個人的にも思い入れがある作品なので、ご存じの方も多いだろうが改めてご紹介したい。
奇跡の再建小倉昭和館にて鑑賞
2024年、年明けすぐに小倉昭和館へ足を運んだ。22年8月10日。一夜にして全てを燃やし尽くしたあの悲惨な火事は、北九州市民、全国の昭和館・ミニシアターファンの胸を痛めた。私もその中の一人だ。
懐かしさを感じるネオンの看板を目印に緊張しながらチケットを買う、少し大人になった気がするあの瞬間がたまらなく好きだった。古い扉を抜けた先のタイムスリップしたような空間でみる作品は、それだけで私にとって特別な一作となった。トークイベントや音楽ライブも企画されていた小倉昭和館。シンガー・ソングライターとして、いつか絶対にここで歌いたい。足を運ぶ度にそう思っていた。
そして火事から1年4カ月後。樋口智巳館長の使命感ともうかがええる情熱、リリー・フランキーさんをはじめとする業界・関係者の方々による後押し、そしてファンの熱い応援によって、小倉昭和館は奇跡の再建を果たした。
息ができないくらい泣いた
込み上げるさまざまな思いと共に鑑賞した「BLUE GIANT」は、同い年3人で結成したジャズバンド「JASS」が奏でる青春物語。世界一のジャズプレーヤーを目指し仙台から上京した主人公・宮本大、東京で出会うすご腕ピアニスト・沢辺雪祈、ジャズ初心者の高校の同級生・玉田俊二。3人の、自分を、仲間を、音楽を信じる姿。幼い青さを熱い炎の青さに変えようとする、彼らのほとばしる若さと可能性とエネルギーはすさまじかった。正直、息ができないくらい泣いた。もはや途中からは涙を拭くことも諦め、映画館を出る頃にはメークも落ち、逆にすがすがしささえ感じてしまうほどだった。
超音楽アニメーション映画
とにかく音楽がすごい。私なりのキャッチコピーをつけるならば、この作品は【超音楽アニメーション映画】だ。ライブさながらに圧倒されるシーンも多く、日本アカデミー賞での最優秀音楽賞も、誰もが納得の受賞だろう。本から音が聞こえると言われた原作の映画化という高いハードルのなかで音楽を監修したのは、日本が世界に誇るジャズピアニスト、上原ひろみさん。楽曲制作だけでなく、キャラクターの指の動きなどのアニメーションと音楽を完全にリンクさせる相当大変な作業を、ワクワクに変えてやり遂げたという。
心に3人の青い炎が移った
キャラクターを演じたプレーヤーもさすがだ。登場人物それぞれの背景を「演じながら」演奏することはとても難しい。幼少期から数々のステージに立ち世界で活躍するプロのミュージシャンが、自分のこだわりや特徴を出すのではなく、役になりきることが求められる。
暑い日も雪の中も河原で一人、サックスを吹き続ける、主人公・大のひた向きさ。ピアノ歴も長く技術もあるが、自分の殻を破れない雪祈が感じる繊細なもどかしさ。ドラムのスティックさえ持ったことがないが、音楽の楽しさに引き込まれていく俊二の初々しさ。
3人の成長や心境の変化を表現する音楽に、スクリーンの奥の奥からもプロフェッショナルを感じた。鑑賞して数カ月たった今も、事あるごとにサントラを聴いている。音楽を聴くだけで3人の青春がよみがえり、また胸が熱くなる。心に3人の青い炎が移ったかのような、そんな余韻の中で生きている。いい映画には、いい音楽がある。その代表例となる素晴らしい作品だった。
残るものやつながるものを創る
小倉昭和館の再出発から感じたのは、場所や建物が無くなったり変わったりしたとしても、人や思い、信念は残りつながっていくということ。火事の事実はもちろん寂しく悲しいが、樋口館長の変わらない口上、集まる昭和館ファンを目の前に、私も残るものやつながるものを創ることを、改めて心に誓ったのだった。