「あなたの微笑み」のリム・カーワイ監督と主演の渡辺紘文=内藤絵美撮影

「あなたの微笑み」のリム・カーワイ監督と主演の渡辺紘文=内藤絵美撮影

2022.11.17

インタビュー:リム・カーワイ×渡辺紘文 インディ界の突破者コンビが贈るミニシアター応援歌 「あなたの微笑み」 

分かりやすく誰もが楽しめるわけではないけれど、キラリと光る、心に刺さる作品は、小さな規模の映画にあったりする。志を持った作り手や上映する映画館がなかったら、映画の多様性は失われてしまうだろう。コロナ禍で特に深刻な影響を受けたのが、そんな映画の担い手たちだ。ひとシネマは、インディペンデントの心意気を持った、個性ある作品と映画館を応援します。がんばれ、インディースピリット!

勝田友巳

勝田友巳

「COME&GO カム・アンド・ゴー」のリム・カーワイと、「プールサイドマン」の渡辺紘文。コアな日本映画ファンならピンとくる、個性的でチャーミングな作品を撮り続けるインディ監督。公開中の「あなたの微笑み」は、リムが監督、渡辺が売れない映画監督役で主演という組み合わせ。ドキュメンタリーではなくて、コロナ禍日本のミニシアターの現実がファンタジーになった、不思議な映画だ。映画愛で結ばれた、意外なようでお似合いの2人。沖縄から北海道まで旅をしながらの撮影もこのインタビューも、息がピッタリ。
 


 

東京国際映画祭が縁結び

――そもそも2人のなれそめは。
 
渡辺 2016年の東京国際映画祭(TIFF)で上映された、自分の「プールサイドマン」を柳町光男監督に見てもらい、その後で2人でお茶していたらリムさんが通りかかって。柳町さんが紹介してくれました。
 
リム わたしも渡辺さんの映画を見て、面白かった。役者としても良いのに、主演は自分の映画だけで他の人の作品では脇役ばかり。もったいないと思っていたんです。キャラクターも存在そのものも映画的で、いつか彼を主役にして映画を作り、みんなにすごさに気付いてほしいと思っていた。
 

「あなたの微笑み」©cinemadrifters

撮影場所で脚本決定 超即興演出

――「あなたの微笑み」は、渡辺さん演じる仕事のない映画監督の渡辺紘文が、沖縄で映画を作ろうとして失敗し、そのまま自分の作品を上映してくれる映画館を探して全国を旅する、という物語です。映画の中の渡辺は東京国際映画祭で賞を取って「世界のワタナベ」を自任していたり、実際の渡辺監督の映画のポスターを持って映画館に売り込んだりと、渡辺監督自身と重なりました。登場するミニシアターも実在で、個性的な館主たちも本人とか。フィクションとドキュメンタリーの境が分かりませんね。
 
リム 大まかな設定はありましたが脚本はなくて、現地で出会った人の背景を生かして即興で作るスタイルです。旅をしながら、思いつきで物語を考えて撮影しました。撮影ではセリフのキーワードを与えて、後はアドリブ。感情や動きを修正しながら演じてもらいました。
 
渡辺 セリフは、リムさんが撮影現場でこういうことを言ってくれとだけ指示される。映画の中の栃木県大田原市の場面は、自分の地元の家で撮影して、両親や弟、友だちが本人役で出演しています。
 
リム 大田原の人たちのことは全然知らなかったですが、全部巻き込んで。渡辺さんのことをよく知ってる人の方が効率的でしょう。映画館主たちも、本人の背景を取り込んだ役で出演してもらっていますが、ドキュメンタリーではありません。人物はリアルでも物語は虚構です。
 
渡辺 出演していても、全く先が読めません。現場に入るときの心構えを聞いたら、準備しないでくださいと。それなら楽だと思ったけれど、まっさらな状態で撮影に臨むのは、こんなに大変かと思うほど難しかった。プロの俳優じゃないので、監督が求めてることにどう応えていいか分からない。
 

リム・カーワイ監督=内藤絵美撮影

監督2人が投影されたキャラクター

――渡辺は口から出任せに大きなことを言う男だけれど、純粋でいちずな映画愛があって、憎めない。どこまで渡辺さん本人なんでしょう。
 
リム 映画の渡辺は過去の栄光にしがみつく、明るくない人を想像していました。でも演じてもらったら、落ち込んでばかりの人は合わない。渡辺さんの素を狙ったというより、今までにない渡辺さんを、かっこよく撮ろうと思いました。
 
渡辺 渡辺は、僕でもありリムさんでもあると思います。自分の映画上映でも苦労はあって、なかなか単独作品での劇場公開はできずイベントや特集が多いです。監督としても勉強になりました。自分のその後「リムスタイル」と呼んで、即興を取り入れたり出会った人を巻き込んだりしながら撮影しています。
 

「あなたの微笑み」©cinemadrifters

ミュージカル場面はヘタならではの味わい

――映画には、主人公の行く先々で平山ひかるが演じる女性が現れて、ミューズのような役割を果たします。2人のミュージカル場面は幻想的で、幸福感がありましたね。
 
リム 彼女も、最初は設定になかったんです。でも撮影を始めてから、映画監督にはミューズが必要だろうと、インターネットで俳優を公募しました。ミニシアターの館主さんたちも現地の人、映画の中の小道具もその場で見つけました。流れに任せて、出会った場所と人を生かして映画を作ったんです。
 
渡辺 ミュージカルシーンの撮影は、前日に「明日渡辺さんは、ライアン・ゴズリングになります」と言われたんです(笑い)。「ラ・ラ・ランド」のようなミュージカル場面を撮りますと。それで午前中いっぱい、平山さんにステップを教えてもらって、午後に撮影しました。
 
リム 半日練習したって、うまくなるはずがありません。うまくなくていいから、そこを面白く撮ろうと狙いました。


 渡辺紘文(左)とリム・カーワイ監督=内藤絵美撮影

撮影後もミニシアターの受難相次ぐ

――映画に登場するのは、地方で奮闘するミニシアターです。コロナ禍での撮影で、その後も荒波を被ったようですね。
 
リム 撮影した七つの映画館のうち、4館が閉館したりなくなったりして、ショックでした。沖縄の首里劇場は館主が亡くなって閉館。兵庫の豊岡劇場も経営が難しくなって一時閉館、23年再開に向けて準備中だそうです。札幌のサツゲキも、コロナ禍で運営会社が代わり、福岡の小倉昭和館は火事で全焼してしまいました。映画が呪われてるのかもと思いましたよ。 
 
――北海道浦河町の大黒座も、映画の中で館主さんの一家が、後継者がおらず閉館するような会話をしていましたが……。
 
リム あれは演出です。大黒座もお客さんは少ないようですが、支配人の家族経営だし、別に収入があるので、閉館という話はないようです。
 
――よかった、安心しました。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン