毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.9.30
秘密の森の、その向こう
8歳の少女ネリーは大好きだった祖母を亡くし、祖母が住んでいた森の中の一軒家へ両親とともに片付けに来る。しかし、母マリオンは祖母との思い出に胸を締め付けられ、家を出ていってしまう。ネリーは森を散歩するうちに、母と同じ名前の少女に出会い、親しくなっていく。
「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ監督・脚本作品。祖母、母、娘の3世代の喪失と心の安らぎの物語だ。移ろいゆく季節の木々と色づく葉、神秘的な中にも人が生きることの切なさやつながりを漂わせ、全てを受け入れる森の美しさに息をのむ。その森を介して生じる過去と現在を溶け込ませる演出で、違和感さえもスーと心に刻まれていく。
気がつけば世代や時間を超越し、日常の淡々とした生活とともに、映像の背後にある女性たちが歩んできた道のり、思いやりや後悔の中で静かに生きていく姿に思いが至る。シアマ監督の女性へのしなやかなまなざしが深い余韻を誘う逸品だ。1時間13分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(鈴)
ここに注目
森というシンプルなロケーションを存分に生かしながら、ごく自然に時空を超えていくファンタジー。母と娘の物語であり、言語化はできないけれど確かに感じていた寂しさや、時計の針とは関係のない時間の流れなど、子供の頃の感覚が鮮やかによみがえるような作品でもある。(細)