パリ13区  ©PAGE 114 - France 2 Cinéma

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2022.4.22

この1本:パリ13区 求めて揺らぐ今の青春

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

華やかなパリのイメージと異なり、再開発で高層マンションが並び多文化多人種の人が暮らす13区。時代のリアルな空気感が洗練されたモノクロ画面に映える。デジタルネーティブ世代の赤裸々で生々しい息づかいが聞こえてくる新たな感覚の青春映画だ。

コールセンターで働く台湾系仏人女性のエミリーは、アフリカ系仏人男性の教師カミーユとルームシェアを始める。2人はすぐにセックスするが、ルームメート以上の関係にならない。地方出身でソルボンヌ大学に復学したノラは、パーティーで金髪のウイッグをつけたために、SNSでアダルト動画を配信するセックスワーカーの〝アンバー〟と誤解され、ひやかしの対象になり通学できなくなる。

エミリーとカミーユは深い関係になってもあまり束縛しない。肉体を求め合うのは生活の一つ。セックスから始まる関係も現代的ということか。その後、ノラを含めた3人はある種の不器用な三角関係に陥るが、性にはオープンだがギスギスした人間関係を避けてさほど執着しない。性描写も再三でてくるがねっとりとはしていない。一方、ノラはアンバーとの会話で自分自身を打ち明けて、生きる力を見いだす。2人が初めて会った時、その衝撃でノラは気絶する。かすかな意識の中で唇を合わせるシーンは官能的だ。女性同士の愛や友情さえ超越するより深い包容力で2人が満たされる。それぞれ、心地よい距離感を求めて揺らぐ心を探っていく過程を繊細に映し出す。

登場人物にはほとんど夢や希望、将来の展望などが明示されない。過ぎゆく日常の中で、愛や性の本音をさらけ出し、素直に生きる姿が切なくいとおしい。孤独と不安を抱え、本当の自分を求めてさまよっている現代人が重なった。「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ監督が脚本に協力。ジャック・オディアール監督。1時間45分。東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほか。(鈴)

ここに注目

これまでも幅広い題材に挑み、監督作を発表するたびに驚きを与えてきたオディアール。この作品では観光地としてのパリとは違う顔を持つ、多様性のある地区の風景をみずみずしく切り取り、やはり新鮮な印象を与えてくれた。セックスから始まる若い世代の関係性を、ユーモアとともに描き出す監督の感性にも驚かされる。光を感じさせるモノクロの映像はもちろん、共同脚本として名を連ねている2人も大きな役割を果たしているのだろう。見終わるころには、それぞれに不安を抱えてつながりを求める登場人物がいとおしくなる。(細)

技あり

ポール・ギローム撮影監督がモノクロでパリを撮る。当今パリの映画は、新開地の話が多い。凱旋門はサッカー世界一の祝いに電車を乗り継いで出かける所になり、若者の日常を描くには重すぎる。13区は高層ビルや中華街があり、セーヌ河畔でもある。泥酔しても歩いて帰れて、若者世界を描くのに適当。コロナ禍で準備期間が十分あり、撮影前に通し稽古(げいこ)した芝居は見応えがある。モノクロの画調になじむ。秀逸なのはノラがアンバーと初めて公園で会い、卒倒するカット。隙間(すきま)は白く飛ばし構図もよく、グレーの階調の伸びが魅力的だ。(渡)