「生きててごめんなさい」 ©2023 ikigome Film Partners

「生きててごめんなさい」 ©2023 ikigome Film Partners

2023.2.03

「生きててごめんなさい」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

小説家志望の修一(黒羽麻璃央)は、出版社の編集部で日々の仕事に追われていた。同居中の莉奈(穂志もえか)は仕事はせず家で一人で過ごしていた。修一は高校の先輩(松井玲奈)が勤める別の出版社の新人賞にエントリーしようとするが、莉奈は担当するコメンテーターの目に留まり、2人は同じ出版社で働き始める。

若い男女を描いた映画は無数にあるが「等身大」という言葉に近い作品だろう。もどかしさと悩みつつも、もがく人物像からは、今を生きるやさしさあふれる若者の焦燥感がにおい立つ。感情の振れ幅が大きい莉奈と現実社会との折り合いに窮する修一の姿は、時代を超えた青春の実相でもある。それでも、撮影などスタッフワークの力もあり、作品のトーンが内容ほど暗くない。再生や自立とは言い切れないまでも、今を生き抜く柔らかさも息づいている。繊細な表情で内面を表現した穂志と黒羽の好演が作品をけん引している。山口健人監督。1時間47分。東京・シネ・リーブル池袋、大阪・なんばパークスシネマほか。(鈴)

異論あり

夢を追いながら挫折する修一に対し、あれよあれよという間にメディアでの成功を手にする莉奈。修一の優しさは支配欲の裏返しに過ぎず、みえと虚勢の代償を払った自業自得と言えばそれまでだが、意志と努力が報われない姿はちょっと可哀そう。いろんな意味で今風。(勝)