毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.2.10
「バビロン」
1920年代のハリウッド、サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)がパーティー会場を訪れる。新人俳優のネリー(マーゴット・ロビー)は大胆な振る舞いでチャンスをものにし、スターへの階段を駆け上がる。ネリーと知り合った青年、マニー(ディエゴ・カルバ)も、ジャックの助手として業界への足がかりをつかむ。
ド派手なパーティーシーンは誘惑と堕落に満ち、道徳が乱れた罪深き都市バビロンは、ハリウッドを象徴している。繁栄したものはやがて廃れ、映画がサイレントからトーキーへ変革を遂げる中、ジャックら3人の運命が変わっていく様が悲しい。
下品な演出にはうんざりしたが、音楽やファッションのきらめきは見事。スターが放つ光と影、成功を夢見るネリーのような若者を消費する大衆の残酷さは今も変わらず、ハリウッドを彩っているはず。デイミアン・チャゼル監督が映画の歴史をエンターテインメントに仕立て上げた。3時間9分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(倉)
ここに注目
サイレントからトーキーに移行するハリウッドの舞台裏を、チャゼル監督は騒々しく描き出す。多幸感あふれる「ラ・ラ・ランド」と異なり、ここは狂騒的で破滅的な虚栄の都。極彩色のらんちき騒ぎを楽しむべし。この時代には欠かせない「雨に唄えば」の引用が、泣かせる。(勝)