第74回ベルリン国際映画祭 「夜明けのすべて」上映で質問に答える(左から)松村北斗、三池唱監督、上白石萌音

第74回ベルリン国際映画祭 「夜明けのすべて」上映で質問に答える(左から)松村北斗、三池唱監督、上白石萌音2024年2月21日、勝田友巳撮影

2024.2.22

松村北斗、上白石萌音を感動させた大拍手 「夜明けのすべて」反応上々 第74回ベルリン国際映画祭

第74回ベルリン国際映画祭は、2月15~25日に開催。日本映画も数多く上映されます。戦火に囲まれた欧州で、近年ますます政治的色合いを強めているベルリンからの話題を、現地からお届けします。

勝田友巳

勝田友巳

第74回ベルリン国際映画祭で21日夜(日本時間22日未明)に上映された「夜明けのすべて」。満員の客席は物語と登場人物に敏感に反応し、会場は温かな雰囲気に包まれていた。現地入りして上映に臨んだ三宅唱監督、主演の松村北斗、上白石萌音は客席の反応を肌で受け止め、観客にとどいたことに安心した様子だった。
 

真剣に見入り、温かい拍手

上映されたのは、個性的な作品を集めたフォーラム部門。三宅監督は「きみの鳥はうたえる」(2019年)がフォーラム部門に、「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)がエンカウンターズ部門と、3作連続のベルリン出品となった。作品選考担当者が「作品選定は賛否が分かれるものだけれど、三宅作品は150%全員一致」と告げるなど、評判はすこぶる良好。上映中も約700席の会場から随所で大きな笑い声が聞こえ、緊迫する場面では固唾(かたず)をのんで見守っていた様子。エンドロールが流れると、大きな拍手が湧き起こった。
 
「夜明けのすべて」は瀬尾まいこの小説が原作で、上白石演じる月経前症候群(PMS)の藤沢と、松村が演じたパニック障害の山添が、互いを理解し支え合う姿を通して社会のありようを問い掛ける。
 

何かを抱える全ての人のために

上映後には、質疑応答が用意され3人が登壇。病気や障害についての社会的認知についての質問に、松村は「演じるにあたって、自分がパニック障害を何も知らなかったと気づいた。この映画を見た人が、半歩でも障害に近づいてくれたらいい」と訴えた。
 
上白石は客席に「日本では生理の話はしにくいけれど、ドイツではどうですか」と問い掛けた。司会者から「変わりつつある」との意見を聞いて、「日本でもそうなるきっかけになるといい。PMSだけでなく、何かを抱えて生きている全ての人のために、少しでも救われたらいいという思いで演じていた」と振り返った。
 
客席から「音楽が印象的」との感想に、三宅監督は「テーマは波とゴースト」と説明。「繰り返すけれどそのたびに違う波、見えないけれどそこにあるゴースト。気配を目指しました」。タイトルについては「夜明けまでの長い時間について描く必要があると感じていた」と明かした。上映中の反応について三宅監督は「予想外の笑いに最初は戸惑ったが、登場人物を友達のように感じてくれたのだと思う。居心地が良かった」と満足げ。
 

日本を客観的に見るきっかけ

上映終了後には日本人記者と会見。三宅監督は「拍手に感激した。もう一回やりたいです」。松村は「しんどいこともあるが、笑えることもあるという映画で、日本だけの話じゃないと思いました」。上白石も「反応が鮮やかで驚いた。上映後の拍手に実感がこもっていた」。
 
3作連続のベルリンについて三宅監督は「プログラミングディレクターとそのチームに呼んでもらった。映画を通した人間的なつながりができたことが幸せ。海外映画祭での経験は、日本社会を客観的に見て、日常的な描写にも背景や理由を考えることにつながっている」と語った。
 
海外での活動について、2人の俳優は意外と控えめ。松村は「映画祭は一過性の奇跡」、上白石も「日本で日本人として頑張りたい」。さらに上白石は「海外に呼ばれたとしても、自分がどういう人間か、日本人がどういう人でどう生きているか、ということが大事だと思う。そこに敏感でいたい」と心構えを話していた。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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