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2022.6.24
Z世代が語る「今」と「先」×作り手が見た「可能性」と「苦悩」:イベントリポート
毎日新聞の映画サイト「ひとシネマ」初のオンラインイベントが、5月27日(金)、約2時間半にわたって開催された。第1部では、「Z世代の『映画の推し事』」と題して、ひとシネマでライターをしているZ世代の2人が現代の映画との付き合い方について語り合い、第2部では映画監督の三島有紀子が「日本映画の世界への可能性」について、作り手側からの見解を述べた。
映画は「社会問題」や「まだ見ぬ世界」との懸け橋
第1部「Z世代の『映画の推し事』」に登場したのは、大学で映像身体学を勉強しているガールズユニット「Merci Merci」の青山波月(あおやま・なつ)と、東京2020パラリンピック開会式で片翼の小さな飛行機を演じた和合由依(わごう・ゆい)。BL作品が好きな青山は「胸キュンシーンもあるが同性愛者への差別などの生きづらさも描かれており、流行に乗ってジェンダー問題の提起にもつながるのではないか」と分析し、在日クルド人の少女が在留資格を失ったことで苦しむ「マイスモールランド」を見た和合も「誰でも見られる映画で社会問題を伝えられることは素晴らしいことだと思う」と映画が持つ社会的影響力の大きさについて語った。
しかし、Z世代の映画との付き合い方は従来と大きく変化しており、21歳の青山、14歳の和合にとって、動画配信サービス(動画サブスク)は当たり前の存在。「ローマの休日」やウォン・カーウァイの「恋する惑星」など古い映画を視聴したり、リコメンド機能を頼りに好みの作品を深掘りしている。サブスクならではの便利さがある一方、今、話題の倍速視聴や映画を15分程度にカットして解説するファストシネマの登場など、新たな風潮や問題も出現。こういった現象について青山は、「今は手軽に見られる分、2〜3時間弱の映画を見ることにリスクを感じる人が増えている。だからこそ、ハイリスク・ハイリターンだと思って、映画でしかできない体験を映画館でしてもらえるような記事を書けるようになりたい」と意気込んだ。一方、和合は「自分が見たことのない世界を映画で知り、それが自分の好きなことになったり趣味になることもあるので、映画はリスクではなく“学び”と思って、これからも映画館に行きたい」と語って幕を閉じた。
日本映画の可能性と視聴環境に見る作り手の苦悩
第2部の「日本映画の世界への可能性」では、イアリアでの映画上映会から帰国したばかりの三島有紀子監督が登壇。2017年の映画「幼な子われらに生まれ」で第41回モントリオール世界映画祭・審査員特別大賞を受賞した三島が、海外で感じた日本映画への意識の変化や、今後について語ってくれた。
三島の監督作「しあわせのパン」(2012年)が北京国際映画祭に出品されてから10年の間、2018年に是枝裕和監督の「万引き家族」が第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを、先ごろ、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が第94回アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞したことから、日本映画全体への関心が高まっており、今回訪れたイタリアでは多くの映画人が新たな日本映画を探していたという。三島の作品に対しても、そう多くはないがと謙遜しながらも、「最近は自分の監督作を探して見てくれる方が少しずつ増え、今年フランスで公開された『Red』や2月に開催された『JFF Plus: Online Festival(オンライン日本映画祭)』で『しあわせのパン』を見たと言ってくださった方もいた」と語った。
コロナ禍以降、オンラインでの映画祭などが増えたことにより映画公開の可能性は広がったが、それと同時に作り手としての悩みも生まれている。例えば、映画館と自宅ではさまざまな機能が異なるため、何を基準に作っていくのかは大きな課題のひとつ。自宅でもヘッドホン視聴はグレードが高いというポジティブな面もあるが、スクリーンとPC画面では光の発し方が全く異なるので、「自分は映画館が好きですし、やはりスクリーンでの上映を望んでいるのですが、これからどちらをベストの状態で見られるようにすべきかということを考えてしまいながら、生きています」と笑った。
変革のとき! 世界を視野に、本気の映画製作を
映画製作の基本構造や世界でのポジションが変化していくなかで、次なる日本映画ブームを生み出すために必要だと思うことは?という問いに三島は、こう答えた。
「辛辣(しんらつ)な意見かもしれませんが、各企業、各個人、自分も含めて、変わることをいとわずに受け入れることではないでしょうか。多くにおいて、前例がなくてもやらなくてはならない時期が来ていると思います。自分たちがいいものが作れるということを信じて、それを海外にきちんと売っていくこと。日本での公開に向けての宣伝だけではなく、映画祭も含めた海外公開を本気で考える。そのためのシステムが違うなら、腹をくくって変えていかなければならないと思います。加えて、次世代のために子供向けの映画鑑賞会を開いて、映画に触れる機会を作ったり映画の見方は自由であることを知っていただいたりする必要もあると思います。映画館をひとつの居場所にできたらなと。ご協力してくださる方とご一緒にシステムを作っていけたら」
加えて、欧州から帰国したばかりということで、最後に「今回イタリアに行きましたが、近いこともありウクライナとロシアの件を肌で感じました。そのなかで映画が見られなくなる日が来るかもしれないということをリアルに感じたので、映画を見る、そして作り続けることができる世の中であることを心から願います」と、切実な思いで締めくくった。
映画と人を深くつなぐ「ひとシネマ」では、今後もたくさんのイベントを予定しています。