毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.5.06
特選掘り出し!:「死刑にいたる病」 残虐な好漢とせめぎ合い
死刑判決を受けたシリアルキラー(連続殺人犯)の榛村(はいむら)(阿部サダヲ)による残忍な手口と心理的サスペンスを描いた白石和彌監督の新作。被害者や榛村の周囲の人物を巧妙に配置し、真相に迫る狂言回しとなる大学生筧井(岡田健史)の心情の揺れを柱に、ざらざらとしたエンタメ作品に仕上げた。
榛村は誰にも好かれるパン屋の店主。気立てのいい高校生に近づき、信頼関係を築いた後に冷酷な方法で犯行に及んだ。常連客で鬱屈としていた筧井は、榛村から「最後の事件はやっていない。真犯人を捜してほしい」と手紙で託され犯人捜しにのめり込んでいく。
榛村と筧井の母との関係性、榛村に精神的に支配されることで生気をみなぎらせる筧井、さらには筧井の内にある暴力性など矢継ぎ早に織り込んで、力技で榛村の内面にくい込んでいく。異常性の根源や背景にはほとんど触れない。2人の摩耗するせめぎ合いに引きずられ、拷問する時の表情や面会シーンの特異な画(え)作りに驚嘆。
殺人鬼を喜々として演じたであろう阿部はもとより、冒頭から榛村に収集したある部分をまき散らさせるなど、遊び心満載でほくそ笑む白石監督の姿が浮かんだ。2時間8分。東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7ほか。(鈴)