しらいし かずや
1974年12月16日 生まれ
映画監督「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2010年)「凶悪」(2013年) 「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年)「孤狼の血」(2018年)「サニー/32」(2018年)「止められるか、俺たちを」(2018年)「孤狼の血 LEVEL2」(2021年)「死刑にいたる病」(2022年)「碁盤斬り」(2024年)「十一人の賊軍」(2024年)
「十一人の賊軍」で山田孝之が演じる農民の政は、〝命をかけて藩の危機を救ったヒーロー〟なんかではない。徹底した反逆児である。妻を陵辱した新発田藩士を殺害し、死罪を言い渡された。侍に刃向かえば命はないと分かっていたのだから、覚悟の上の復讐(ふくしゅう)だ。武士階級にも藩にも憎しみしかなく、大義や忠誠はかけらもない。赦免を条件に藩軍に加わったものの、藩のために命を捨てる気など毛頭ない。隙(すき)を見て脱走することしか考えず、ほかの藩兵を平気で裏切り何度も脱走しては失敗を繰り返す。だからこの映画、よくある分かりやすいヒーローアクションではないのである。 60年前に葬られた企画が復活 こ...
勝田友巳
2024.11.14
「今古有神奉志士」。この剣を持つ者は、昔からの神々を敬い伝統を重んじる志士である。映画「ラストサムライ」で勝元(渡辺謙)がオールグレン(トム・クルーズ)に与えた刀に刻まれた銘である。「十一人の賊軍」を表現するのに、これほど的確な表現があるだろうか。 しかし、それが正しいと映画館で確認するには、二つの大きな制約がある。一つは、交通費を別にしても2000円の費用を用意し、上映時刻に間に合わせなければならないこと。同じ費用があれば、動画配信サービスで映画を好きな時間に見放題できる現実があるなら、なおさらだ。「自国の映画を応援しよう」「大切にしよう」などの当為論は、すでに説得力を失って久しい。金と時...
洪相鉉
2024.11.12
1868年から続いた、旧幕府軍と薩摩藩・長州藩中心の新政府軍(官軍)が争った戊辰戦争を背景にした抗争劇。旧幕府勢力の奥羽越列藩同盟に加わりながら、新発田藩が同盟を裏切ったエピソードが下敷き。新発田藩の命運を握る11人の罪人が、あるとりでを守るために身を投じた壮絶な戦いを描いた。「仁義なき戦い」の脚本家、笠原和夫が残したプロットを「孤狼の血」の池上純哉が脚本化、白石和彌が監督した。 スケール感のあるオープンセット、リアルなつり橋などスタッフの力を結集。生身の動きが伝わる殺陣や爆破シーンと派手なアクション満載のエンタメに仕上げた。一方で、為政者ではなく名もなき罪人たちのドラマにこだわったのは、庶...
2024.11.01
生気が無く、うつろな目をした主人公・香川杏(河合優実)は、ひとり人けのない街を歩く。物語は、そんな場面から始まる。母親から暴力を受け続けて売春を強いられ、10代で覚えた覚醒剤から抜け出せなくなった一人の少女。それでも、出会いを機にやり直そうとする彼女に差し込む情と無情を、「あんのこと」は淡々とつづっていく。 杏の生い立ちや境遇は、社会の「日陰」として扱われがちだ。学校に通わず、売春をして、違法薬物に手を染める。この社会に確かに存在しているのに、そこに至った経緯に目を向けられることは少ない。こうした世界を自分とは無縁だと思っていたならば、「あんのこと」は見る者に痛切なリアルを突きつけるだろう。...
春増翔太
2024.6.07
ヤクザ映画、ロマンポルノ、アウトローものなど多彩な作品を生み出してきた白石和彌監督の新境地となった「碁盤斬り」。名作落語「柳田格之進」をベースの人情話と思いきや、復讐(ふくしゅう)劇も加えて殺陣も見せる、正攻法の時代劇だ。江戸時代の生きざま、京都の撮影所、リアルとけれんの融合など、時代劇映画の愉楽が端々にまで感じられる一本に仕上げた。 囲碁好き浪人の敵討ち 柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられたうえに妻も失い、故郷の彦根藩を追われ浪人となって娘のお絹と江戸の貧乏長屋で暮らしていた。実直な人柄で、かねてたしなむ囲碁においてもウソ偽りのない勝負を心掛けてきた。ある日、囲碁で親し...
鈴木隆
2024.5.24
とある事件のぬれぎぬを着せられ、妻を亡くし藩を追われた浪人の格之進(草彅剛)は、娘のお絹(清原果耶)と江戸の長屋で2人暮らし。囲碁の名手で、碁会所で出会った商人の萬屋(國村隼)と碁仲間となったが、ある晩、萬屋の金が消え、格之進が盗んだと疑われる。一方、藩で起きた事件は碁敵の兵庫(斎藤工)の逆恨みが原因だと知り、格之進は妻のかたきを討つために、兵庫を捜す旅に出る。 落語の人情話を下敷きにした、あだ討ち時代劇。誇り高く激しさを秘めた武士の格之進を、草彅が風格たっぷりに好演。新境地を見せている。 囲碁が重要な要素となっているのも好感。近年の将棋人気と比べると、囲碁の存在感はもう一つ。勝負の展開が...
2024.5.17
5月6日に劇場公開された「死刑にいたる病」が、好調だ。同時期に封切られた話題作の数々としのぎを削り、6月21日付で興行収入10億円を突破。ディープな映画ファンはもとより、若者層を大量に動員している。ひとシネマでは、ヒットの仕掛人である企画・プロデュースの深瀬和美さん、宣伝プロデューサーの木村範子さんに取材を敢行。試行錯誤の連続だったというSNS戦略などについて、じっくりと語っていただいた。 初号を見たスタッフの意外な反応 ――まずは「死刑にいたる病」興収10億円突破、おめでとうございます。クロックワークスさんが製作幹事・配給を務める邦画実写映画作品では、歴代トップに...
SYO
2022.6.23
死刑判決を受けたシリアルキラー(連続殺人犯)の榛村(はいむら)(阿部サダヲ)による残忍な手口と心理的サスペンスを描いた白石和彌監督の新作。被害者や榛村の周囲の人物を巧妙に配置し、真相に迫る狂言回しとなる大学生筧井(岡田健史)の心情の揺れを柱に、ざらざらとしたエンタメ作品に仕上げた。 榛村は誰にも好かれるパン屋の店主。気立てのいい高校生に近づき、信頼関係を築いた後に冷酷な方法で犯行に及んだ。常連客で鬱屈としていた筧井は、榛村から「最後の事件はやっていない。真犯人を捜してほしい」と手紙で託され犯人捜しにのめり込んでいく。 榛村と筧井の母との関係性、榛村に精神的に支配されることで生気をみなぎらせ...
2022.5.06
「芝居の難しさにチャレンジ、楽しかった」 スクリーンの枠を破壊するようなハイテンション。画面でのイメージと打って変わって、落ち着いた受け答えの阿部サダヲ。「いつもあんなだったら、疲れちゃいますよね」。それはそうだ。5月6日公開の「死刑にいたる病」では、言葉で人を操るサイコキラーを不気味に演じている。大声も出さず目もむかず、動きすらない。「ここまで淡々としてる人、やったことないと思う」と、やはり淡々と。 「シネマの週末 特選掘り出し!:死刑にいたる病 残虐な好漢とせめぎ合い」はこちらから。 待望の白石組再参加 「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年)以来の白石和彌...
2022.5.05
持ちつ持たれつのヤクザと警察、その均衡が崩れて暴力が噴出する――。下敷きは、深作欣二監督の「県警対組織暴力」だろう。随所にオマージュがささげられ、東映実録映画の血気を再燃させようという勢いである。2018年の「孤狼の血」の続編でも「2」ではなく「LEVEL2」。前作を上回ると宣言したところが挑発的で頼もしい。 呉原東署の先輩刑事大上の後を継ぎ、日岡(松坂桃李)は仁正会と尾谷組の抗争を抑え込んでいた。しかし仁正会傘下の上林(鈴木亮平)が出所し、謀殺された五十子会長のカタキを討つと暴走する。 日岡は見せかけの秩序を維持するために、灰色の領域で立ち回る。一方の上林は、冷酷残虐で執拗(しつよう)な...
2021.8.26
売れない芸人の徳永(林遣都)は、営業で行った熱海の花火大会で強烈な先輩芸人・神谷(波岡一喜)と出会う。笑いを追求する神谷を師と仰ぐ徳永だが、神谷は天才肌であり、かつ人間味に富んだ人物。神谷は自分の伝記を書くことを条件に、徳永を受け入れる。以降、徳永と神谷はひんぱんに会っては酒を酌み交わし、神谷は徳永に笑いの哲学を伝授しようし、キラキラと輝く時間を共有するが、関係は微妙に変化し始めて……。 日本純文学の最高峰である第153回芥川賞を受賞したお笑い芸人・ピース又吉の同名小説を実写化。日本独特の話芸・漫才の世界に身を投じた青年たちの十年を映しながら、生きることの意味、いとしさを謳いあげる青春物語。...
日本近代史上最大の内乱である戊辰戦争の激戦地となった北陸では、長岡城奪還や新潟湊での地上戦など、旧幕府軍が巻き返しつつあった。だがその戦況を一変させ、新政府軍に勝利をもたらしたのは新発田藩による歴史的な寝返りだった。彼らはなぜ背信の道を選んだのか。どのようにして、激戦を生き延びたのか。「日本侠客伝」(1964年)や「仁義なき戦い」(73年)を手掛けた名脚本家・笠原和夫が、史実に着想を得て書き遺した幻の物語が60年以上の時を経て遂に映画化された。 監督は、「凶悪」(13年)や「孤狼の血」シリーズ、「碁盤斬り」(24年)などを手掛けた白石和彌。「孤狼の血」シリーズのスタッフが集結し、笠原和夫が遺...
1980年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描く半自伝ドラマ。 企画・脚本・プロデュースに鈴木おさむ、監督は白石和彌。 80年代、男女の不平等や女性蔑視が問題視されずに当たり前だった時代の日本。 そんな時代と格闘し、日本中を熱狂させ空前のブームを巻き起こしたのは女子プロレスだった。 正統派プロレスラーとしての成功にあこがれながらもクビ寸前だったダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)が悪役に転身し、クラッシュギャルズとして日本中のスターへかけ上がる長与千種(唐田えりか)、ライオネス飛鳥(剛力彩芽)ら仲間たちとの友情と戦い、さまざまな代償を抱えながら日本史...
柳田の堪忍袋または碁盤割とも呼ばれる古典落語の名作「柳田格之進」を映画化。「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年)や「孤狼の血」(18年)を手掛けてきた白石和彌監督の初の時代劇となる。主演は、「ミッドナイトスワン」(20年)で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した草彅剛。主人公・格之進の一人娘・お絹役を清原果耶が演じる。 一人娘のお絹と江戸の貧乏長屋で暮らす柳田格之進は、身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われた浪人の身だ。しかし、その実直な人柄は、かねてから嗜む囲碁にも表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。ある日、旧知の藩士により、冤罪事件の真相を知ら...
昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島・呉原――。そこは、いまだ暴力団組織が割拠し、新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の「加古村組」と地場の暴力団「尾谷組」との抗争の火種がくすぶり始めていた。そんな中、「加古村組」関連企業の金融会社社員が失踪する。失踪を殺人事件と見たマル暴のベテラン刑事・大上と新人刑事・日岡は事件解決のために奔走するが、やくざの抗争が正義も愛も金も、すべてをのみ込んでいく……。警察組織のもくろみ、大上自身に向けられた黒い疑惑、さまざまな欲望をむき出しにして、暴力団と警察を巻き込んだ血で血を洗う報復合戦が起ころうとしていた……。 ©2018 「孤狼の血」製作委員会
原作は1990年に文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞の候補となった、河林満の「渇水」。貧困や格差社会、家族の絆など、今日なお重要な問いが胸に迫る作品。映画化にあたっては、映画監督・白石和彌が企画・プロデュースを務め、監督は、「RED HARP BLUES」(2002年)や、「月と嘘と殺人」(2010年)などの髙橋正弥。「東京ゴミ女」(2000年)、「機関車先生」(2004年)の及川章太郎が髙橋とタッグを組んで脚本を仕上げた。本作のために向井秀徳が主題歌「渇水」を書き下ろした。 水道料金を滞納している家庭や店舗の水道を停める仕事をしていた岩切俊作(生田斗真)は、県内全域に給水制限が発令され...
志望校の受験に失敗し挫折感を抱える大学生の筧井(岡田健史)は、10代の少年たちを殺害し死刑判決を受けている榛村(阿部サダヲ)からの手紙を受け取る。榛村は表向きは人あたりの良いパン屋で、筧井は幼い頃に常連だったのだ。榛村は有罪とされたうちの1人は自分の犯行ではない、冤罪を晴らしてくれと依頼する。半信半疑の筧井が調べ始めると、自身の母親が施設で育ち、榛村と旧知の仲だったこと、榛村が無罪を主張する1人が、他の被害者と明らかに異なることなどが、次々と分かってくる。櫛木理宇の小説を映画化。 ©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会
尾谷組と広島仁正界の抗争が沈静化して3年。呉原東署の刑事日岡は裏社会とも通じながら広島の治安を保っていた。しかし広島仁正会傘下、五十子会の上林が刑務所から出所し、五十子会会長を殺害した尾谷組への報復を開始。激しい抗争が再燃する。2018年の「孤狼の血」の続編。