「永遠のこどもたち」©Rodar y Rodar Cine y Television, S.L  Telecinco Cinema, S.A., 2006

「永遠のこどもたち」©Rodar y Rodar Cine y Television, S.L Telecinco Cinema, S.A., 2006

2023.4.12

才能輩出スペイン製ホラー 幽霊屋敷と時間軸交錯の新趣向「永遠のこどもたち」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

周知の通り、スペイン映画界は才能あふれるフィルムメーカーをコンスタントに輩出しており、同国のアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞のノミネーションには、毎年優れた作品がずらりと並ぶ。2008年の第22回ゴヤ賞で脚光を浴びたのは、まだ30代前半の青年監督が手がけた長編デビュー作だった。
 

キーワード「暗闇なんて怖くない」

その作品「永遠のこどもたち」(07年)は、賞レースでは軽んじられがちなホラー映画でありながら、最優秀作品賞を含む14部門にノミネートされ、新人監督賞、脚本賞など7部門の受賞を果たした。監督のJ・A・バヨナはのちにハリウッドに招かれ、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」(18年)のメガホンをとったが、「永遠のこどもたち」は今見直しても新人離れした完成度の高さを誇っている。
 

元孤児院の屋敷で消えた子供

映画はかつて孤児院だった海辺の古い屋敷を買い取ったラウラ(ベレン・ルエダ)という女性が、医師である夫のカルロス、難病を患う7歳の息子シモンとともに現地へ引っ越してくるところから始まる。
 
幼い頃、この孤児院で育ったラウラは、障害を持つ子供たち向けの施設を新たにオープンさせようとしていた。ところが開園パーティーの日、シモンがこつ然と姿をくらましてしまう。警察が大規模な捜索を行っても、手がかりさえ見つからない。半年が経過してもシモンの無事を信じて疑わないラウラは、心霊の専門家と霊媒師に助けを求めるのだが……。


 

物語を牽引する母性愛

本作は多様なジャンルの要素をはらんだ恐怖映画だ。消えたシモンの行方をめぐる失踪ミステリーとして滑り出した物語は、いかなる苦難にも屈しない主人公ラウラの母性愛によって牽引(けんいん)されていく。
 
そして序盤から屋敷内に不穏な気配が立ちこめる映像世界は、女性霊媒師(ジェラルディン・チャップリン)が登場する中盤からオカルト色を濃くし、幽霊屋敷を舞台とした本格的なゴーストストーリーへと変貌。洋館のプロダクションデザインは堂々たる仕上がりで、現代のゴシックホラーと呼ぶにふさわしい風格が漂う。
 
とりわけ作り手の気合が感じられる見せ場は、オープンリールのテープレコーダーや監視モニターなどのアナログ機器を投入した女性霊媒師の交霊シーンだ。この屋敷では人知を超えた不可解な現象が続発しており、ラウラは息子のシモンが幽霊に連れ去られたのではないかと考えている。
 

多様な引用で見えない存在を映像化

いざ交霊実験が始まると、画面上では霊媒師が何かを察知したかのように屋敷内を歩き回り、音声モニターからは複数の子供の悲鳴のようなものが聞こえてくる。これは怖い。幽霊の姿は直接映像化されていないのに、繊細にして巧妙な映像と音響効果がそこにいるかもしれない幽霊の存在をいや応なく想像させるのだ。
 
おそらくバヨナ監督は相当なシネフィルで、過去のホラー、スリラー、ミステリー映画からも多くのインスピレーションを得たのだろう。例えば、画面外からぬーっと伸びてくる子供たちの手が壁紙を引き剝がすメインタイトルのユニークなデザインは、鬼才オットー・プレミンジャーがイギリスで撮り上げたカルト的な失踪ミステリー「バニー・レークは行方不明」(65年)のそれを彷彿(ほうふつ)とさせる。
 

だるまさんがころんだ

その一方で、本作オリジナルの斬新な描写も随所に見られる。主要舞台の幽霊屋敷を、現在と過去のふたつの時間軸が共存しているパラレルワールドと定義したアイデアがそのひとつ。シモン失踪の真相を探りあてようとするラウラは、その謎解きの鍵を握る幽霊たちと接触するために、現在から過去へと時間を巻き戻さなくてはならない。
 
そんなタイムトラベルのような現象を、いったいどうやって実現させるのか? 本作の冒頭には孤児院の子供たちがスペイン版の〝だるまさんがころんだ〟に興じるシーンが映像化されているが、それがクライマックスの伏線となる。おそらく映画史上初めて〝だるまさんがころんだ〟を応用した幽霊の出現シーンは、恐怖演出における画期的な発明と言ってもいい。
 

母親の迷わぬ強さ

そしてもうひとつ特筆すべきは、ラウラが発揮する強靱(きょうじん)な母性愛だ。通常、私たち観客は暗がりを恐れる登場人物に感情移入し、幽霊や魔物が潜んでいるかもしれない暗闇に恐怖を感じる。ところが我が子を取り戻したい一心で行動するラウラは、迷うことなく暗闇の奥深くへと身を投じていく。見ているこちらは、息を詰めて成り行きを見守るしかない。その果てには心震わす結末が待っている。
 

「永遠のこどもたち」はNBCユニバーサル・エンターテイメントからDVD発売中。1572円。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。
 

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