アジアの天使  (c)2021TheAsianAngelFilmPartners

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2021.7.01

アジアの天使 

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

商業映画で挑戦を続ける石井裕也監督、公開中の「茜(あかね)色に焼かれる」に続く新作だ。韓国が舞台のロードムービーで、文化と言葉の壁を越える。

売れない小説家の剛(池松壮亮)は幼い息子を連れて、ソウルに兄透(オダギリジョー)を訪ねた。透が一緒に商売をやろうと誘ったのだ。ところが現地の共同経営者が財産を持ち逃げ。新規まき直しを図る透と、韓国北東部の江原道を目指す。一方、落ち目の元アイドル歌手ソル(チェ・ヒソ)は、兄と妹と共に両親の墓参のため江原道に向かっていた。2組は電車の中で出会い、一緒に旅をする。

問題だらけの2家族。妻を亡くし作家としても行き詰まった剛は、一念発起して日本を出たものの、透任せで主体性がない。頼みの透は調子はいいがうさんくさい。一方ソルは、プライドを捨てられず歌にしがみつく。家族を養っていると高飛車で、ふがいない兄を見下し妹からも疎んじられる。行き当たりばったりの道行きは、迷子になったりソルが急病になったりとトラブル続き。

旅の間に打ち解けていく展開は、ロードムービーの定石通り。自分を見つめ直す旅の効能も効いている。しかし、生半可なきれい事を言わないのがいいところ。金が全ての世の中で、人は虐げられるし搾取される。家族の問題は簡単に解決なんかされない。

それでも石井監督は、人間を全肯定し、愛こそ全てとぶち上げる。オロオロしてばかりの剛に、楽天家の透は言う。必要な言葉は二つだけだ、「メクチュチュセヨ(ビールください)」「サランヘヨ(愛してます)」。飯を食い片言で語り合ううちに、ソルと剛の間にはうっすらと愛情めいたものまで漂い出す。


兄弟とソルは、路上で天使を目撃した共通の経験がある。天使はさえないアジアの中年男。救いは不格好で思いがけない姿で現れる。2時間8分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)

異論あり

「言葉はなくても気持ちはつながる」というシンプルなメッセージが優しい視点で描かれる。出てくる風景、人物のすべてがいとおしく感じられた。ただ、石井監督の作品という点では物足りなさもあった。「生きちゃった」で、胸を締め付けられるような痛みや熱さをまとった世界観に打ちのめされた者としては、本作はまるで「夢の国」。天使も出てくるファンタジーではあるが、美しくまとまりすぎた気がした。ドロドロした感情を表現できる役者がそろっただけに、もっと生臭い人間ドラマを見たかったというのはぜいたくだろうか。(智)

技あり

キム・ジョンソン撮影監督は少しかぶせめのカメラ角度が好きなようだ。芝居場でも、わずかに見下ろす高さをよく使う。たとえばソルの叔母の家に寄り道した夜、剛が庭にいるソルに告白しようとする場面の引き画(え)も、カメラはわずかにかぶせめ。角度のきつい俯瞰(ふかん)もうまい。墓参の後、夜の駅で別れがたく、寒さで足踏みする一行を俯瞰で撮る。角度と周囲の空間の取り方が絶妙だ。アップを拾い、右に電話ボックスを入れて一段と引いた俯瞰になるが、緊張感や寂しさは持続する。石井監督が言う「愛にあふれた優しい映画」になった。(渡)