毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.5.27
時代の目:ドンバス 属性ではなく個の尊重を
2014年にウクライナからの「独立」を宣言し、親ロシア勢力の支配下にある東部ドンバス。そこでの出来事を点描する、エピソード集の趣だ。映画はフィクションでロシアによる侵攻前なら見え方も違ったろうが、現在の情勢と照らし合わせれば、抑圧と暴力が日常と化した生活と、精神の荒廃が生々しく伝わってくる。
バスの中でメークを施された役者たちが、兵士に促されてカメラの前で証言する。フェイクニュースの収録なのだ。あるいは地下シェルターの中で、避難した人々が湿気と不自由な生活を訴える。通りではウクライナ義勇軍の捕虜がさらし者にされ、道行く人たちの罵声を浴びる。詳しい説明はなく、風景と人々を淡々と映し出すだけ。ディストピア的状況でも、そこはかとなくユーモアも感じさせる。そして専制支配への静かな怒りがふつふつとたぎっている。
ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督は、ロシアを強く非難するだけでなく、中立的に対応してきた欧州の映画界も、ロシア映画を一律に排除するウクライナ映画界も批判する。国籍や属性ではなく、個人の尊重と連帯を求めるのだ。ウクライナに関心があれば、必見の一作。2時間1分。シアター・イメージフォーラム。(勝)
藤原帰一のいつでもシネマ:「ドンバス」ウクライナ東部 独裁政権下の不条理描く