親密な他人 © 2021 シグロ/Omphalos  Pictures

親密な他人 © 2021 シグロ/Omphalos Pictures

2022.3.03

親密な他人

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

シングルマザーの恵(黒沢あすか)は、突然行方不明になった息子心平(上村侑)の帰りを待っていた。ある日、掲示板に心平の情報があるという青年雄二(神尾楓珠)が現れ、息子の持ち物を渡される。恵は住む家のない雄二を自分の部屋に招き入れる。

母性の深遠と大人の女性の奥底にある狂気をえぐり出すような演出に、「オレオレ詐欺」が持つ母子の関係性と現代性を絡ませた。恵と雄二のゾクゾクするような接触に身を乗り出し、黒沢がしだいにあらわにするエロチシズムと女性性の底知れぬゆがみに翻弄(ほんろう)される。恵のアパートのほとんど装飾のない白い壁、家電の響く音などが内面を浮き彫りにし、狂信的な空気感が部屋中に立ちこめる。陰影に富む照明、恵と雄二の美しさが終盤になるほど際立つ撮影、恵に寄り添う音楽などスタッフも充実。黒沢が体中から醸し出す毒気と、愛に心が縛られていく女性の多面性を赤裸々に演じて恐ろしいほど魅力たっぷり。中村真夕監督。1時間36分。東京・ユーロスペースは5日、大阪・第七芸術劇場は4月16日から。(鈴)

異論あり

能面のように無表情の黒沢が不気味に見えてくるスリラー。獲物を引きつける食虫植物のごとき恵が、母性の闇と女の狂おしさをジワジワとにじませる。コロナ禍の閉塞(へいそく)感とも呼応した。エロスとバイオレンスの寸止め演出は、あとひとさじあってもよかった。粘度が増したのでは。(勝)

黒沢あすかインタビュー

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

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