「キャメラを止めるな!」© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

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2022.7.22

リメーク爆誕記念!本家「カメ止め」ヒットメーカーが語る奇跡への道のり

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

宮脇祐介

宮脇祐介

奇跡の自主製作映画2018年6月23日公開「カメラを止めるな!」。
新宿K's cinema、池袋シネマ・ロサの東京都内2館で公開された「カメ止め」はその後国内350館以上にブッキングされ、約222万人を動員し、興行収入31.2億円を稼ぎ大ヒットを記録した。一躍スターダムに躍り出た上田慎一郎監督はじめ、出演の濱津隆之、竹原芳子(どんぐり)なども現在スクリーンで大活躍している。
奇跡はいまだ続き、フランスでリメークされた「キャメラを止めるな!」が今年の第75回カンヌ国際映画祭のオープニングを飾ったのだ。
そんな「カメ止め」を奇跡に導いた大きなゲームチェンジャーがいたことはあまり知られていない。
アスミック・エースの豊島雅郎(てしま・まさお)さん。

1986年、当時のアスミック設立後の入社1期生で、ビデオ・ストレートの映画買い付けやセールス、ゲーム事業などを経て、もはや伝説の96年公開「トレインスポッティング」などを買い付けた。邦画では02年「ピンポン」、03年から始まった劇場版「木更津キャッツアイ」シリーズなどを手がけてきた。
そんな大ヒットプロデューサーの豊島さんに「キャメ止め」から「カメ止め」を振り返ってもらった。
 

フランス版公開中! まだ止まらない「カメ止め」旋風

――まずは「キャメ止め」を見ていかがでしたか?
 
豊島 カンヌ国際映画祭のオープニング・プレミアの次の日に日本で試写で見ました。
「カメ止め」ファンはもちろん映画ファン必見の作品ですね。
映画愛と家族への愛は普遍なんだなとつくづく感じました。
 
――豊島さんは「カメ止め」ファンのかなり初期だったのではないですか。
 
豊島 2018年6月23日公開で、7月1日日曜日に見ました。連日毎回満員とのうわさは聞いていたのですが。
 
――聞いていたのですが?
 
豊島 本当は新宿のあるシネコンにモーニングショーを見に行っていたのですが、あまりに面白くなくて、途中で出てきたんです。
そこで、はたと思い出して「カメ止め」の発券の行列に並んだんですね。
 
――当時はネット予約はなかった!
 
豊島 並んで当日の夕方の回を買うことができました。会わなかったんですが、同じ日に当時宣伝部にいた本田純子さんが僕より早く来て列に並んで見ていたそうです。
映画を見てあまりに面白いので、すぐ配給のENBUゼミナールの市橋浩治プロデューサーに電話して、月曜日に会って、翌日にはENBUゼミナールとアスミック・エースが共同配給することを決めてくれました。
 
――電光石火ですね。
 
豊島 TOHOシネマズにブッキングの話をしたら、その日のうちに編成担当が池袋シネマ・ロサのレイトショーを見てくれました。トントントンと話が進んで、8月にブッキングしてもらいました。
 
――さすがブッキングの競争が激しいTOHOシネマズ。積極的に話題作を見に行く目利きの方がいますね。
 
豊島 フットワークが軽いですね。
そこで、シネコンでも映画をかけられるよう画(え)や音などをグレードアップして1週間ほどで調整をしました。
 
――着々と公開の準備が整い始めましたね。
 
豊島 それが、TOHOシネマズでかかっていた夏の大作が思ったよりも入らなくて、上映が早まらないか?との話が来ました。
 
――準備もままならぬ中の公開ですね。
 
豊島 口コミがありましたから。最初は7月27日にTOHOシネマズ新宿、日比谷で上映され、8月3日には多くの劇場で上映されるようになりました。そのほとんどの劇場が大入りとなりました。
日比谷では、初日スクリーン12(定員489人)での舞台あいさつ。満員の観客がスタンディング・オベーションでスタッフ・キャストを称えたことが心に焼き付いています。

 

映画愛×熱狂が生んだ世界を巻き込む社会現象

――ヒットの原因はなんだったと思いますか。
 
豊島 映画愛と家族への愛という普遍的なものを描いていた、ワンカットムービーであることはもちろんですが、その後の全てがうまく運んだ。連日劇場には長蛇の列ができる。それを面白がってメディアが取り上げる。当然作品も面白い。いつの間にか、報道ステーションのコメンテーターに上田監督が呼ばれたことなどが興行につながった。
 
――本社主催の毎日映画コンクールでも監督賞を受賞し、作品も評価されました。
 
市橋プロデューサーや上田監督、スタッフ・キャストの映画愛が結実したもの。僕はただたまたまアシストしただけです。
 
――ところで今回の「キャメ止め」はかかわっていないんですね。
 
豊島 脚本は読んだのですが。今回配給のギャガさんが非常に熱心で。買い付け、配給だけでなく、フランス本国の製作出資までされていましたから。
 
――ところで話によると来年60歳で、アスミック・エースのプロパーでは初の到達ですか(笑い)。
 
豊島 そうですね。どういう形かは別として、これからもアスミック・エースや映画業界とは長い付き合いをしていこうと思っています。卒業なんて言わないでください(笑い)。
 
――ぜひともこれからも映画界を面白くプロデュースしてください。
 
豊島 ありがとうございました。

 
日本の映画愛がぐるっと地球を回ってフランスにたどり着いた。
現在公開中、ぜひとも映画愛あふれる「キャメ止め」を劇場にてご覧ください。
 
追伸:アスミックは1985年発足の飯田橋から、1998年エース・ピクチャーズと合併し本郷3丁目に移り、その後六本木、丸の内と移るたびに会社の規模を大きくしていきました。一時期同社が掲げていた「インディペンデント・メジャー」という言葉を思い出したインタビューなのでした。
 
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ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

カメラマン
下元優子

下元優子

1981年生まれ。写真家。東京都出身。公益社団法人日本広告写真家協会APA正会員。写真家HASEO氏に師事