田中絹代賞 寺島しのぶ=丸山博撮影

田中絹代賞 寺島しのぶ=丸山博撮影

2023.2.06

田中絹代賞 寺島しのぶ 母娘2代で受賞「やりきった、と思える役と出合いたい」:第77回毎日映画コンクール

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

勝田友巳

勝田友巳

毎日映コンでは、第58回「赤目四十八瀧心中未遂」と第65回「キャタピラー」で女優主演賞を2度受賞。「キャタピラー」ではベルリン国際映画祭で最優秀女優賞にも輝き、押しも押されもせぬ実力者である。母、富司純子も第54回で田中絹代賞、毎日映コン史上初の母娘受賞となった。。「光栄ですし、すごくうれしい。母が映画に生きる姿を見ながら、スクリーンに顔が大きく映ることを夢見てきました」

 
 

世界に置いていかれないように

田中絹代が亡くなった年にまだ5歳で、もちろん直接の思い出はない。しかし「西鶴一代女」はことあるごとに見直しているという。
 
「これぞ日本映画。絹代さんは監督もプロデューサーもされた。女優としてだけでなく、映画界に貢献されたというイメージがあります。賞の名前に恥じないようにさらに挑戦して、監督やプロデューサーにはなれないかもしれませんが、日本映画が世界に置いていかれないようにしたいと思います」
 

いろんな現場をやってきたご褒美

梨園(りえん)に生まれ、舞台でデビュー、数々の賞を手にした。映画では2003年、「赤目四十八瀧心中未遂」「ヴァイブレータ」と立て続けに主演して、毎日映コンをはじめ映画賞を総なめ。以降、主演でも脇に回っても、スクリーンを支える存在感を示してきた。「毎日映コンは俳優が本当に評価されていると感じると、先輩から聞いて育ってきました。田中絹代賞は、これからの活躍が期待される女優への賞ということで、うれしいです。いろんな現場をやってきたご褒美で、幸先のいい年になりました」
 
メジャー大作での柄の大きい役から小規模な作品の繊細な役まで自在に演じ分け、演技力への信頼は絶大だ。出演を決めるのは「求めているものやコンディション、タイミング。それらが合致した時ですかね」。22年は「天間荘の三姉妹」「あちらにいる鬼」と2本が公開された。
 


 

答えは脚本にしかない

「『天間荘の三姉妹』は、東日本大震災が背景にある題材で、関わらなければいけない作品だと思いました。『あちらにいる鬼』は何年も前からの企画。諦めかけてたところでの撮影でしたから、クランクアップは感慨無量でした」
 


 
役へのアプローチは、脚本から。「答えは脚本にしかないので、すみずみまで読んで世界に浸る。人のセリフの場面でも、何を考えているかとか、書かれていないことを想像する。そうすると、役が埋まっていく気がします。核が見つかって、役として返せると思えれば大丈夫だと思います」
 

がんばらないといけない役を選ぶ

結婚、出産を経て、子育てにも追われる日々。50代に入り、俳優としてもベテランと目されるようになってきた。「『赤目四十八瀧心中未遂』のころと、私の中は変わりません。子供ができてからもハングリー精神は持ち続けているし、いただいた話はどんな役でもうれしい。これまでご一緒した監督とも、新しい若い監督とも組んでみたい。体力は落ちているかもしれないけれど、常に手抜きをしないでやりたいですね」
 
10歳になった息子の寺嶋眞秀も、俳優として活躍中だ。「お芝居が好きみたいです。拍手をもらってニヤニヤして。自分を見るのも好きみたい。わたしはアラばかり見つけてしまうから、自分が出た作品はほとんど見ないのに」
 
「できそうな役と、がんばらないといけない役の選択肢があったら、後者をとる。やりきった、離れたくないという役とどれだけ出合えるか、考えます。でも、桃井かおりさんが『女は50代から。体は動くし色気もまだあって、好き放題できる』とおっしゃった。その言葉を信じています」
 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

丸山博

毎日新聞写真部カメラマン