「ドイツ・ワールドメディアフェスティバル 2023」のエンターテインメント部門で金賞の盾を持つ北大路欣也さん

「ドイツ・ワールドメディアフェスティバル 2023」のエンターテインメント部門で金賞の盾を持つ北大路欣也さん

2023.7.12

北大路欣也さんインタビュー:「三屋清左衛門残日録 あの日の声」ドイツ・ワールドメディアフェスティバル 2023金賞を受賞

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鈴木隆

鈴木隆

北大路欣也さんが主演のドラマ「三屋清左衛門残日録 あの日の声」が、このほどハンブルクで開催された「ドイツ・ワールドメディアフェスティバル 2023」のエンターテインメント部門で金賞を受賞した。

©時代劇専門チャンネル/J:COM/時代劇パートナーズ 藤沢周平Ⓡ
 
藤沢周平原作の時代劇シリーズの第6作で、受賞を記念して7月29日午後6時からBSフジで、8月6日午後7時から時代劇専門チャンネルで凱旋(がいせん)アンコール放送されることが決まった。北大路さんは「スタッフや俳優らみんなでハンブルクに行って、ビールで乾杯したい気持ちです」と受賞の喜び、役柄や時代劇にかける思いなどを語ってくれた。
 
「三屋清左衛門残日録」は2016年からテレビドラマ化され、時代劇専門チャンネルなどで放送されている人気時代劇シリーズ。これまでほぼ1年に1作を制作、放送してきた。清左衛門を演じる北大路さんをはじめ、優香さん、金田明夫さん、麻生祐未さん、伊東四朗さんらレギュラー陣や、中村敦夫さん、伊武雅刀さん、三田佳子さん、小林稔侍さん、勝野洋さん、小野寺昭さん、伊吹吾郎さんら豪華な俳優がわきを固め、時代劇ファンから圧倒的な支持を受けてきた。
 
東北の小藩で前藩主の用人(側近)を務めた清左衛門は、家督を息子に譲り、隠居の身になり「残日録」と名付けた日記をつづる悠々自適な生活を送っている。そんな清左衛門のもとに事件や旧知の同僚らが絡むもめごと、藩を二分する政争などが起こり、事件解決に向けて奔走する。第6作「あの日の声」では、20年前に清左衛門の前で藩主に直訴しようとしたが事ならず、今は農民になった人物とその実子、数日前に城内で起きた刃傷沙汰との関係を不審に思った清左衛門が、過去の一件とのかかわりを調べ悪の根源を暴いていく。
 

ファンやスタッフ、先人への感謝

 「受賞の知らせを受けたときは何が起こったのかと思い、次に全員で温かい空気をもらったような気持ちになった。何といっても、〝ちょんまげ〟の時代劇ですから」とインタビューの冒頭から満面の笑みを見せた。「人類共通の愛みたいなものを感じてくれたんですよ。どの国であれ考え方が多様であろうと、友情や人、仕事への愛には壁がない。それが届いたことが何よりうれしい」

 
実は北大路さん、60代前半に本シリーズのプロデューサーに清左衛門役を打診された。「当時はまだちょっと早いかなと思った」と一度辞退したが、「10年後に再びお話をいただいた」。その時は70代前半で「また縁があればと思っていたので、うれしくて、ぜひやらせてください」と即決。さらにもう一つ、北大路さんには特別に感慨深いことがあった。
 
「撮影を行った東映京都撮影所は、13歳の時に『父子鷹(おやこだか)』(1956年)でデビューさせてもらった撮影所。そこで80歳になった私が現役としてこの作品をやらせていただける。この時間の流れはたまらないものがあるんです。そういうものも含めて、この作品に出合えた喜びは、いろんな先輩たちも思い出しますし、今までさまざまな作品をやらせていただいた結果なんです。幸い肉体的にも元気です」
 
さらに続ける。「撮影所のスタッフの皆さんにもお伝えして、みんなで喜びを分かち合いたいですし、これからもがんばりましょうという気持ち。こんなことってめったにないですよ」。喜びを一気に話したが、北大路さんは続くインタビューの中でもスタッフや裏方さん、作品を支えてくれるファンへの感謝の言葉、時代劇を作ってきた先人たちへの思いを何度も口にした。映画やテレビで作品をけん引してきた大スターは、作品にかかわったすべての人への感謝、気配りも一流なのだ。
 

生き方へのあこがれ

 清左衛門役を一度辞退したのには大きな理由があった。「娯楽時代劇、チャンバラをずっとやってきた。著名な人物を演じたが、時代劇の多くは年齢不詳だ」。最初に声をかけていただいた時には60歳を過ぎていたが「一つの仕事を成し遂げて老後を迎えようとする人の心境が自分の中でつかめなかったのではないか。昔、おやじ(市川右太衛門)がよく『役者は若くないといけない』と言っていた。60代の役をやるというのは自分が経験したうえで、その役を演じる肉体を持っていないといけない。そう見えないといけない。今になって、なるほど、それを話していたんだと感じた」。毎日のように散歩をしていた父はこうも言っていたという。「仕事が来るからやっているんじゃない。いつ来てもいいように続けている」。そうした先輩たちが「周囲にたくさんいた」と振り返った。

 
7年6作品を経て「三屋清左衛門残日録」シリーズは北大路さんの代表作の一本に加わった。「この作品との出合いは役者人生にとって、こんな幸せなことはないと思えるほど。清左衛門とともに素晴らしい人生を味わいたい。清左衛門にあこがれている」。ここまで清左衛門に心酔する理由はどこにあるのか。「静かに生きる力強さ、が藤沢周平先生の一つのテーマ。自分の役目を務めあげて、役目を終えて静かに生きながらもその役目を捨てないエネルギーを持っている。多くの人があこがれるのではないか」。老後を楽しくのんびり、というふうに見えるが決してそうではない。「清左衛門の老後は本当の意味で豊かだ。奥さんは亡くなって寂しいが、支えてくれる人との出会い、その人たちとの愛情の交換もある。今を生きている躍動感を感じる人物だ」
 

静かに強く生きる

 藤沢周平作品へは若いころから、強いあこがれがあったが、その一方で「高い場所」にあったという。若いころは「文芸作品にたどりつくには時間がかかるだろう」という思いもあった。年輪を重ね、多くの作品を経て真正面から向き合った藤沢作品。「藤沢先生が描く人物へのあこがれは、80歳になってやっと到達した」。多様な役を演じてきて「本当にこんなに静かに強く生きられる人物は初めて。豊かな人生を振り返ることもできるし、前を見て生きる世界もきちんとある」と最大級の賛辞を贈る。
 
清左衛門の生き方への理解と憧憬は、確かに北大路さんの生き方とシンクロしていく。「土地を愛し、組織を愛し、一緒に暮らした人たちへの愛も、感謝もある。謙虚さの中にも、自分に与えられたものの中で役に立つものがあれば、という思いがある」。うらやましい人物像だが、一人の役者としても「役にあこがれることは、一つのエモーションになる」と断言した。
 

7作目の制作が決定

 さて、北大路さんがここまで役に精力を傾ける、「三屋清左衛門残日録」の世界。シリーズ最新第7作の制作が決定し、今秋以降に撮影開始の予定という。放送時期など詳細は後日発表される。
 
「本当にうれしい。ファンの皆さんの強い応援のおかげです。スタッフとともに感謝したい。制作決定を聞きスタッフの人たちとまた再会できると、顔が浮かぶんです」。同時に自身を育て、成長させてきた時代劇への深い思い、先人たちの作品や仕事への姿勢を「今の私を支える一番の原動力」と話す。
 
大御所としての役者の位置に安住せず、良い作品作りに邁進(まいしん)するバリバリの現役の大スター。「若い人にも時代劇の面白さを堪能してほしい」と話し、「今は次回作にワクワクしている」と声を弾ませた。

<ドイツ・ワールドメディアフェスティバル>
2000年にドイツのハンブルクで始まった国際映像祭。情報、教育、エンターテインメントなど16分野で、作品性の高さを競うヨーロッパ最大規模の映像コンペティションとして、欧州で最も有名な賞の一つ。23年は33の国と地域から764作品の応募があり、「三屋清左衛門残日録 あの日の声」はエンターテインメント部門の金賞を受賞した。

受賞を記念して、時代劇専門チャンネル(CS292)にて
8月6日(日)よる7時ほか「三屋清左衛門残日録 あの日の声」を凱旋アンコール放送。 https://www.jidaigeki.com/mitsuya6/

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
田辺麻衣子

田辺麻衣子

たなべ・まいこ 2001年九州産業大学芸術学部写真学科卒業後スタジオカメラマンとして勤務。04年に独立し、06年猫のいるフォトサロンPINK BUTTERFLYを立ち上げる。企業、個人などさまざまな撮影を行いながら縁をつなぐことをモットーに活動中。

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