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2023.10.20
〝どん底女〟安藤サクラと〝サイコパス〟山田涼介の完璧な化学反応 「BAD LANDS」原田眞人監督インタビュー
原田眞人監督は公開中のクライムサスペンス「BAD LANDS バッド・ランズ」を、社会を映す鏡としての犯罪、格差、家族のつながりといった現代の問題を背景に織り込みつつ、先の読めない展開で観客を引き込むエンターテインメントに仕上げた。テーマは特殊詐欺。大阪弁が味を出すフィルムノワールだ。黒川博行の原作小説「勁草(けいそう)」と異なり、主人公の受け子のリーダーは、女性に置き換えた。その意図とは――。脚本・プロデュースも手がける原田監督に聞いた。
逃げきれるか「持たざる者」
特殊詐欺に加担する姉弟、ネリ(安藤サクラ)とジョー(山田涼介)は思いがけず億を超す大金を手にしてしまう。金を引き出そうとする2人に、さまざまな巨悪が迫り、大阪府警も動き出す。
いわゆる「オレオレ詐欺」で、逃亡する犯人と追う府警の刑事を描いた原作を読んだとき、すでに原田監督には「刑事物というよりは犯罪物。一人の女性が生き抜いていく犯罪映画というイメージ」が生まれた。受け子のリーダーであるネリは、生きるために「持てる者」から金をかすめ取って生きる。社会の底辺で犯罪に手を染めるネリだが、貧相なアパートに住む「持たざる者」たちとのやりとりなどから、その哲学が垣間見え、魅力的な人物に描かれている。
原田監督は主人公を女性にする際、「ドストエフスキーの『虐げられた人びと』に登場するネリーを黒澤明監督が『赤ひげ』に〝包摂〟したように」と考えた。望んでそこにいるわけではない、「生きにくい」世界から、ネリがいかに抜け出すことができるのかが作品のテーマになった。
「BAD LANDS バッド・ランズ」©2023「BAD LANDS」製作委員会
メルビルのノワールを大阪弁で
舞台は大阪。フランスのフィルムノワールの巨匠、ジャン・ピエール・メルビル監督の映画を見ているときから、「犯罪者の仁義の世界を、大阪弁でやったら面白いだろうと思っていた」と明かす。受け子の追跡シーンなど一部は大阪市内でのロケだが、実は撮影の多くは滋賀県彦根市で行った。
より自由度の高い環境を求め、大阪・西成の三角公園を意識した街を、彦根銀座と呼ばれる商店街裏の駐車場に作り上げた。アパート「ふれあい荘」も彦根市内に実在する集合住宅を改装して使った。「根底にあるのは工藤栄一監督の『野獣刑事』のような、そういう西成をイメージしていた」と、映画にはかつての日雇い労働者の街のイメージがそのままに生き、その大阪弁にも臨場感を与えている。
ネリを生きた安藤サクラ
アパート「ふれあい荘」の一員である宇崎竜童演じる曼荼羅(まんだら)と呼ばれる男は、中でもとびきり魅力的に描かれている。彼は社会的には「持たざる者」だろう。では、この映画に出てくる「持てる者」はどのような人間なのだろうか――。「持てる者」と「持たざる者」の境界がどこにあるのか考えさせられるのは、彼らの人生に想像を巡らす場面があるからだろう。
原田監督は、同じく「ふれあい荘」の一員で、特殊詐欺の受け子をして生きる通称・教授(大場泰正)とネリの「心が同調する」シーンを一つ、例に挙げた。ネリが教授に同調したのは、彼女もまた背負っているものがあるからだろう。それは見る者に単純な善悪を超えてその人間の背景を想像させる余韻がある。「2人の役者がうまく表現してくれた。あのシーンのネリの表情も良かった。ポイントポイントで安藤サクラは完璧にネリを読み込んで生きていてくれた」と評する。
「涼介は皮膚感覚。反応がいい」
姉弟を演じた安藤と山田について、「最初の本読みから、2人が違和感なく入っていった」と振り返り、「共演者の化学反応が今回ほどはまったことはない」と自信を見せる。ジョーはネリを慕い、純粋無垢(むく)、かつ無鉄砲でサイコパスな役柄だ。原田監督作品への出演は「燃えよ剣」(2021年)以来となる山田について、「涼介の素晴らしいところは細かいことを確認しなくても皮膚感覚で役を理解する。とにかく反応がいい」と評価した。
また、「新鮮な顔を入れたい」と起用したという、謎多き女を演じたサリngROCKも存在感が光った。自身が中心となって結成した劇団「突撃金魚」の全ての脚本・演出を手がけるが、映画・ドラマなどの映像作品の出演は本作が初めてだ。
「持てる者」「持たざる者」の間でさまざまな表情を見せつつ、生き抜こうとするネリは、光をつかめるのか。原田監督の言う「一人の女性の成長」を見届けたい。