公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。
2024.10.24
チェ・ミンシク 「破墓」の悪霊「本気で怖がった」 「演技の神髄は、まねではなく信じること」
韓国で観客動員1200万人の大ヒットとなったホラー映画「破墓 パミョ」で主演したチェ・ミンシク。「シュリ」「オールド・ボーイ」など多くのヒット作に出演した韓国映画隆盛の立役者ながら「まだまだ三流」と謙虚な姿勢を崩さない。「これからやってみたいのはラブストーリー」と意外な一面も見せてくれた。
霊魂と人間の関係に興味あった
「破墓」は謎めいた墓から悪霊が解き放たれ、霊をはらう巫堂(ムーダン)や土地の吉兆を判断する風水師、墓の改葬を仕切る葬儀師らが戦うオカルトホラー。陰陽道や霊の存在など、韓国の死生観を反映した物語だ。
「元々(目に見えない)形而上学的なイメージや霊魂、魂、神と人間の関係などに興味があった」という。チャン・ジェヒョン監督は「プリースト 悪魔を葬る者」「サバハ」などのホラーで知られる。「現実的ではないものを、説得力のある作品にする力のある監督。どう作るのか気になっていた」
「死後の世界や魂、生者と魂は通じ合うといったことは信じているが、幽霊に遭遇したことはないし、怖いです」と笑顔を見せた。「ただ、霊魂や幽霊は恐怖の対象になりがちでも、機械が感じることはない。人間だけが持てる極めて特殊なものと思っている」
自身は風水と、どうかかわってきたのか。子ども時代にさかのぼる。「母や祖母と行っていた寺の僧侶が風水に詳しく、引っ越す場合はどの方角がいいとか、家の門はどっち向きがいいとか聞いて育ち、体に染みついている」。風水を論理的に説明する。「風水は東洋哲学。迷信と思っている人もいるし、キリスト教文化では軽んじられるが、実はとても科学的だ」と言い、お墓の最適な場所など理にかなった考えであることを指摘。「昔の人が大地を見て、自然を眺める視点から生まれたものだから」と話した。
「破墓/パミョ」© 2024 SHOWBOX AND PINETOWN PRODUCTION ALL RIGHTS RESERVED.
風水師は見ているものが違う
映画の中で風水師に見えるためにどんな工夫をしたのか。答えはシンプルだ。「何も気を使わなかった。風水に関与している人は年配の人が多く、どこにでもいそうなおなかの出ている韓国のおじさんだ。ただ、ものを見る視点が違う。サンドクは40年間風水師として生きてきた。山で尾根や木、水の流れを見る時も、登山客はきれいだとか言う。しかし風水師は、自然を観察する視点が一般人とは決定的に異なる。その点は逃さず演じたつもりだ」というのだ。
確かに、サンドクの見た目は普通のおじさん。これまでの多くの作品に比べ、怖くないチェ・ミンシクが映っていた。「人や対象に恐怖を与える役柄が多かったかもしれないが、今回は恐怖にさらされる、いわば被害者のような役。チャン・ジェヒョン監督が私をキャスティングした理由の一つが『恐怖におののき、震えている姿を見てみたい』だったそうです」。そう言いながら笑い転げた。
これまでとある意味正反対の役を演じた感想を聞くと、演技論に。「形而上学的なものに対して恐怖を感じる役なので、マインドコントロールをしっかりしないといけなかった。演じる時に『これはウソ』『映画だから』と思ってはダメ。とにかく信じる。本当に怖い、威圧されていると自身をコントロールしていた」と話した。
キャラクターは架空ではなく実在する
これまで、数々の賞も得た演技派。役へのアプローチの仕方に触れてくれたので、その極意に迫ってみた。「俳優は脚本家が作りあげた架空のキャラクターを演じるが、実際にいる人と思わなければいけない。大切なのは信じることだ。キャラクターやシチュエーション、2時間程度の物語を信じるかどうかで演技の濃さも、作品のクオリティーも変わる」
言葉に真摯(しんし)さと重みが加わる。「まねをすることと本当に信じることは、天と地ほど差がある。朴訥(ぼくとつ)だったり粗削りだったりしても、結果としてそうした形になるだけで、信じて演じるのが俳優だし、そのこと自体に大きな価値がある」と語った。
「俳優が役を信じて出てきた言葉遣いや呼吸、まなざし、動き、姿勢なら観客も信じ、受け入れてくれる。演技やサウンドから作品を理解し、歩み寄ることができる。そうした心構えで演じることが大事で実力にもつながる」。話の途中で「自分がそうだと、自慢しているのではない」と謙虚さも見せた。「そうした俳優になりたいと努力している。まだまだ、三流です」とほほ笑んだ。
やってみたいのはラブストーリー
真摯な受け答えと丁寧で穏やかな話し方、柔らかい口調とユーモアにひきこまれた。威圧的とはほど遠い。キャリア35年を過ぎて俳優業へのアプローチにも変化が出てきたという。
「多くの人に会い、経験を積んできたので、どんなキャラクターでも、どんな状況でも、あせらずに余裕を持って見ることができるようになった。考えてみたら、年を重ねてそれができないというのも問題。以前はひたすらがんばらないといけないという気持ちが先走っていたが、今は自分を客観的に見るよう努力している。同時に、作品に対する意欲もどんどん高まっている」
本作でもこれまでなかった役に挑んだが、さらに〝やってみたい役〟を聞くと、間髪入れずに「恋愛もの」と一段トーンの高い声が返ってきた。「といっても、青春を謳歌(おうか)する男女が、すてきなカフェでエスプレッソを飲みながら見つめあうようなラブストーリーではない」と前置きし「私ぐらいの年齢の人が経験しうる愛」という。自身は62歳。「ある日突然、愛する対象が現れるが、それは本物の愛か、ただの欲望か。この年齢で誰かを愛する気持ちが芽生えるのか、心の中にそうした火種やぬくもりがあるかといった愛の物語を演じてみたい」。魅力たっぷりに語る姿は、すでに演じる心の準備ができているかのよう。「愛にさまよっているチェさん、みたいですね」と返すと、「私もそう思います。映画の中だけの話です」と声を弾ませた。