「忘れない、パレスチナの子どもたちを」 マイケル・ウインターボトム監督とムハンマド・サウワーフ監督

「忘れない、パレスチナの子どもたちを」 マイケル・ウインターボトム監督とムハンマド・サウワーフ監督提供写真

2024.10.16

「子どもは殺されるために生まれたのではない!」ガザとロンドンから「戦争を止めて」 「忘れない、パレスチナの子どもたちを」 

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鈴木隆

鈴木隆

「忘れない、パレスチナの子どもたちを」は2021年5月、イスラエルが11日間にわたってパレスチナ・ガザ地区で行った爆撃で殺害された、少なくとも67人の子どもたちを追悼するドキュメンタリー映画だ。当時、そのニュースを見たイギリス人のマイケル・ウィンターボトム監督が、パレスチナ人でガザに住むムハンマド・サウワーフ監督と協力して製作した。サウワーフ監督は約100時間分の映像をウィンターボトム監督に送り、ウィンターボトム監督がロンドンの編集室でマックス・リヒターの音楽などを加えて完成させた。

インタビューは、ロンドンのウィンターボトム監督とガザのサウワーフ監督、そして筆者のいる東京をオンラインでつないで行われた。この作品を製作した思いやガザの生々しい実情などを語ってくれた。


かなわなかった夢や希望を語る親たち

映画は、サウワーフ監督が亡くなった子どもたちの家などを訪れ、母や父、兄弟や姉妹、祖父や祖母、友人らに亡くなった時の様子や思い出、どんな夢や希望を持っていたかなどを聞く形で撮影。子どもの写真や動画、家で使っていた遺品なども映し出す。子どもや家族ごとにこのパターンを繰り返す作りを選択したのはなぜだったのか。

ウィンターボトム監督は「映像を初めて見た時に心を動かされた。家族がどれほどその子を愛していたか、その気持ちを撮りたかった。私にも子どもがいる。どの国のどの家族も、同じように子どもを愛している。幸せになってほしいと願っている。遺族らの映像を繰り返すことで、感情に訴える力がより強くなればいいと考えた。マックス・リヒターの音楽も、楽曲のフレーズを淡々と繰り返している」

表情は言葉よりも雄弁に悲しみを伝える

カメラは亡くなった子どもたちの顔、遺族の表情をアップも含め何度も映し出す。現場で撮影したサウワーフ監督は「表情は時に言葉にできないものを語る。怒りや悲しみをより深く伝えることができると思った」。ガザからの報道は殺害された人数ばかりが先にたち、犠牲になった一人一人の顔が見えづらいのが実情だ。「私が言えることは、世界中の人々にガザで何が起こっているか、子どもたちがどうなっているかを知ってもらうことが大事だということだけだ。中東であれ、アメリカであれ、日本であれ、子どもたちはみな同じだ」

ウィンターボトム監督が言葉をつなぐ。「彼らがどういう生活を送っていたか、子どもにどんな愛情を感じていたか見てほしい。自分たちと同じだと気がついてほしい。もし自分たちが彼らのような状況におちいったら何ができるか、身を置き換えて考えてほしいのです」


「忘れない、パレスチナの子どもたちを」©Revolution Films 2022

遺族を説得、信頼関係を築いた

撮影は攻撃からわずか1カ月後から始まったが、亡くなった子どもたちの家族が撮影に協力してくれたのはなぜか、どう説得したのか。サウワーフ監督はジェノサイドの歴史から語り始めた。「多くの家族は75年もの間、住んでいた場所から強制移住させられている。殺人や殺戮(さつりく)を目のあたりにしてきた人たちだ。その苦しみや悲しみはしみつき、受け継がれるものになってしまった。だから、多くの人たちが『もっと声を上げたい』『自分たちのストーリーを話したい』と思うようになった」と話した。

サウワーフ監督は、撮影の前に何度も遺族の家に足を運び信頼関係を築いた。「あなたの殺された子どもの声をしっかりと残すこと、ほかの人に伝えることが大切だと説得した」。この映画は、殺された子どもたちのストーリーを語るプラットフォームになると考えた。「さらに大事なのは、ガザには(同じように亡くなった子どもが)ほかにもたくさんいることだと伝えた」。もちろん、説得できなかった例もあるが「自分の子どものことは話せなくても、写真などを提供してくれた遺族もいた」という。

現在進行中のパレスチナとイスラエルの軍事衝突は1年を過ぎたが、停戦のメドすら立っていない。「21年もひどかったが、今は比べられないほど悲惨だ。想像できないほどひどいことが起こっている。全てが(イスラエル軍の)ターゲットになり、壊されている。攻撃による死者は4万人を超え、10万人以上がけがをし、何百万人もが自宅を離れることを余儀なくされている。人口が220万人のガザで、18万6000人が亡くなったというリポートもある。住民の8~10%が死亡したということになる」


サウワーフ監督の家族も犠牲に

サウワーフ監督は現在もガザにいて、戦火の中で映画を作り続けている。「今も私たちの頭の上から爆弾が落ち、日々追われている」のが実情だ。「私がそれでもここに住み、映画を作っているのは、ガザの人たちの叫びを伝えたいからだ。ガザの人々は自分たちの悲痛な声や苦しみが、他の人に伝わっていると信じている」

「ガザには安全な場所も、シェルターもない。この衝突はガザのすべての人に害を与えている。私もその一人だ。(インタビュー中の今も)皆さんと話をしているが、いつロケット弾が飛んでくるか、空爆が始まるか分からない」

実際に、家族にも大きな犠牲が出た。「今いるのは、家族や親戚47人が殺された場所だ。昨年11月17日、爆弾で両親、兄弟2人とその妻と子どもたちが犠牲になり、私も致命的な傷を負った。兄弟の一人はこの映画を手伝い、一人は外国のメディアに関わっていた」と話した。「こうした悲劇はいたるところから聞こえてくる。知人もたくさん殺された。そうした状況でも、人々は希望を持っている。この戦争はいずれ終わると考えているのです」


戦争を止めるために、日本もできることを

どうしたら解決への道筋が生まれるのか。ウィンターボトム監督は「簡単な答えはない。状況は本当にひどい。この映画と同じことを今年殺された子どもたちでやろうとすると、200本くらいの映画になってしまう」。ユニセフの発表では、ガザ地区で殺害された子どもは4月時点で1万3800人以上という。「1年間にあらゆる戦争や紛争で殺される子どもの数より多いのが実態だ」

「アメリカやイギリスは口では停戦と言うが、同時にアメリカ製の武器をイスラエルに渡し、イスラエルはアメリカ製の爆弾を落としている。イギリスはアメリカの行為をサポートしている。私は政治家ではないが、アメリカもイギリスも日本も、すぐにでも戦争を止めさせなければならない」

最後に、サウワーフ監督から日本の人々へのメッセージを伝えたい。「子どもは悲惨な状況の中で殺されるためではなく、希望を持ち、夢をかなえるために生まれてきた。日本もほかのどこの国の人も、ガザの戦争を止めるためにできることをしてほしい。子どもは自分が感じる幸せを素直に追いかけていく。ハローキティのおもちゃで遊ぶことが幸せと感じたら、ハローキティを追いかける。それが子どもです」 

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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