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2024.12.22
マッツ・ミケルセン「ライオン・キング:ムファサ」でもやっぱり悪役 「気にしないよ。米国流とはそういうもの」
ハリウッド大作でおなじみ、でも悪役ばっかり。「007/カジノ・ロワイヤル」のル・シッフル、「ドクター・ストレンジ」のカエシリウス、「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」のグリンデルバルド、「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」のユルゲン・フォラー……。みんなこの人、マッツ・ミケルセン。日本にファンも多いが、なぜかヒーローに倒される。声優として出演した「ライオン・キング:ムファサ」でも、主人公ムファサと敵対するキロスである。
デンマーク映画は特別
欧州映画ではシリアスな役もコメディーも、なんでも来いなのに、悔しくないですか。「そういうもんだよ。いかにもアメリカ流なことが二つあるんだ」といたずらっぽく。「一つは、うまくいったらもう1回やらせる。もう一つは伝統的なハリウッド流儀で、悪者は外国から来てへんななまりがあるってこと。だから私に回ってくるんだね」
冗談めかして言いながら、故郷デンマークへの目配りも忘れていない。「自分が出ているハリウッド映画を気に入った人が、デンマーク映画を見てくれるでしょう。デンマークの言葉も文化も物語も、自分にとっては特別。一方で、私はアメリカ映画を見て育ったけど、剣を使ったアクション大作なんか、デンマークでは絶対できない。ウィンウィンだよ」。インタビューでは悪役っぽさなどみじんも感じさせない、気さくで快活。
「ライオン・キング:ムファサ」©2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
ただの悪ではなく理解できる人物に
それに、と付け加える。「俳優の99%は、ただ仕事をしたがっている。やりたくないとは言わないものだ。私は運良く、悪役でもタイプの違うキャラクターを演じてきた。ドラマ『ハンニバル』のレクター博士と『ライオン・キング:ムファサ』のキロスでは全然違う。コメディーやシリアスなドラマは、デンマークでできるしね」
とはいえ、ハリウッドの憎まれ役はステレオタイプになりがちだ。「物事を善悪に分けるのは、とてもアメリカ的だと思う。日本でもデンマークでも、人間は悪いことも良いこともするはずだ。だから理解できる、身近に感じられる人物として造形したい。それに、悪者はたいていヒーローより役が小さい。あなたが主役なら、映画はあなたのためにあるし、そうでないなら、あなたが映画のためにあるってことかな」
映らなくても背景を持つことが大事
「ライオン・キング:ムファサ」は、後に動物の王となるムファサの幼いころを描く。両親とはぐれたムファサはたどり着いた地で王の子、タカ(後のスカー)に救われ、兄弟のように育つ。2頭は約束の地ミレーレを探して旅立つが、タカは勇敢で強い心を持つムファサに引け目を感じるようになり、やがて溝が広がっていく。キロスはムファサの行く手を阻むはぐれライオンのボスだ。出番は少ないが、ムファサとタカの未来を決定づける大事な役どころ。
「この物語はムファサが主人公だけれど、タカにも光を当てている。タカは自分がムファサには及ばないと気づかされ、友情も兄弟愛も失われてしまう。キロスは他のライオンたちとは異質で、群れからはじき出され、居場所を探し生き残るために強くなり、他のはぐれライオンたちを率いるようになった。映画ではそんな背景は分からないけれど、自分の中で準備しておくことが大事なんだ」。ミュージカル仕立ての映画で、歌まで披露する。「気に入ってくれた? とても歌手にはなれないけどね」
低迷期からニューウエーブへ
俳優としては遅咲きだった。器械体操の選手として訓練され、ダンサーに転じて活躍。俳優デビューは30歳だった。「ダンスは大好きで、ステージも満足だった。でも、ただ踊るよりも、ドラマのある踊りがものすごく面白かった。ずっとドラマだけやりたいと思って、チャンスにかけた」。スタートが遅かったことは、ハンディではなかったという。
「たいていの俳優には遅すぎるかもしれないが、私にはよかった。ダンサーになったのも20歳ぐらいで早いとはいえず、人生の基盤を作らなくてはいけなかったからね。俳優への転身も、それが正しい道だと思って不安はなかった。ダンサーも俳優も、子どもの頃には夢にも思っていなかった。たいていの子どもと同じようにサッカー選手になりたかったかな。サッカー選手になっていたら、今ごろとっくに引退してたけど」
俳優になったころ、デンマーク映画は低迷期だったという。「でも、『タクシードライバー』や『ゴッドファーザー』を見て育った私と同世代の監督たちが、何かすごいことをやろうとしていた。彼らとデンマーク映画を変えようと思っていた」。後にハリウッドに進出し「ドライヴ」を撮るニコラス・ウィンディング・レフン監督の「プッシャー」でデビュー。「未来を生きる君たちへ」でアカデミー賞外国語映画賞を受賞するスサンネ・ビア監督の「しあわせな孤独」にも出演。デンマーク映画の新しい潮流が生まれていた。「彼らが起こした新たな波は、今も続いている」
あるとき、ハリウッドから電話がかかってきた。アントワン・フークア監督の「キング・アーサー」への誘いだった。「ハリウッドに行こうなんて、まったく考えていなかった。エージェントがいたわけでもなかったが、オーディションに招かれたんだ。アントワンが私の出ていた映画を見たらしい」。同作で円卓の騎士の1人を演じ、ハリウッドデビュー。その後「007/カジノ・ロワイヤル」でボンドの酷薄な敵を演じて一気に知名度を上げた。アクションやファンタジー大作の悪役に次々と声がかかったのは、冒頭に記した通り。
「ある地点から別の地点に行き、そこで思いがけないことが起こる。その連続だよ」。ただ、これだけハリウッド映画に出演しているのに「米国で撮影したのは1日だけ」。大作の撮影はヨーロッパだという。「だから米国への移住なんか考えてもいない。家族がロサンゼルスの家で、チェコで撮影している私の帰りを待つことになってしまうからね」
人の評価はコントロールできない
「ダンサーになろうとか俳優になろうとか、野心を持っていたわけではなく、その時やれることだけに集中して、真剣に取り組んできた。いま出演している映画が一番大事だと。5年後にこうしたいなんて計画を立てたら、今がおろそかになってしまう。ゴールに到達できないことを恐れることはない。人に気に入ってもらえるかどうか、自分ではコントロールできないだろう。だから最善を尽くす。その積み重ねがキャリアになったんだ」
今夢中なのは、家の改築だという。「あと1、2年かかりきりだな。古い家を建て直して家具を入れ替えて、とても楽しいよ」。毎年のようにコミコンで来日し、熱烈なファンも多い。日本のゲームクリエーター小島秀夫のビデオゲームのメインキャラクターとして出演している。日本映画にも出演して。「ぜひ!」。といっても、ハリウッド俳優の出演料は、日本ではちょっと……。「いやいや、デンマークだって予算は大きくないよ。衣装は自腹で持ってくるから」