「探偵マーロウ」 リーアム・ニーソン=提供写真

「探偵マーロウ」 リーアム・ニーソン=提供写真

2023.6.28

アクションだけじゃない! にじみ出る人間味と哀感「セリフの真実味こそ演技の要」 「探偵マーロウ」主演リーアム・ニーソン

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

鈴木隆

鈴木隆

近年はアクションスターとしての主演作が続くリーアム・ニーソン。映画デビューから45年、出演100本目の節目で演じたのは、熱望していたハードボイルド探偵、フィリップ・マーロウだった。オンラインでのインタビューに「1930年代のフィルムノワールの世界を楽しんだ」とノリノリの撮影を振り返った。


 

1930年代のスーツに身を包みフィルムのワールの世界に

米の作家レイモンド・チャンドラーが生んだ私立探偵フィリップ・マーロウが登場するミステリーは何度も映画化され、ハンフリー・ボガート、ジェームズ・ガーナー、エリオット・グールドら名だたる俳優がマーロウを演じてきた。ニーソンにとってのマーロウは、ロバート・ミッチャムという。「『さらば愛しき女よ』(75年)、『大いなる眠り』(78年)を見て大ファンになった。僕自身、マーロウ役を熱望していた」と声を弾ませた。
 
加えて、ハリウッドを舞台にした30~40年代のフィルムノワールも大好きという。「小さなころからモノクロ映画で見ていたので、この世界に足を踏み入れるのはとても楽しみだった。俳優としてその世界に完全に没入した。(撮影の日は)毎朝、30年代のスーツに身を包むのが楽しみだった」

 
「探偵マーロウ」©2022 Parallel Films (Marlowe) Ltd. / Hills Productions A.I.E. /Davis Films

失踪した愛人捜しからハリウッドの闇へ

「探偵マーロウ」の原作は、ブッカー賞受賞作家ジョン・バンビルがベンジャミン・ブラック名義で執筆し、チャンドラーの「ロング・グッドバイ」の続編として本家より公認された小説「黒い瞳のブロンド」。
 
39年のロサンゼルスが舞台。私立探偵マーロウの事務所を訪れたのは裕福そうなブロンド美女のクレア・キャベンディッシュ。「突然姿を消したかつての愛人ニコを捜してほしい」という依頼を引き受ける。マーロウはニコが事故死したことを知るが、クレアは「街で見かけた」という。捜査を進めるにつれ映画産業が急成長するハリウッドの闇に引きずりこまれていく。


マーロウものは全部読んだ

マーロウとその世界のどこに魅了されたのか。「マーロウはとてもダークな世界に生きていて、片方の足を司法、もう片方を犯罪者の世界に置いている。相手にするのは少し危険な人物たち。ただ、彼には内なる正義を求める欲求を強く感じる」
 
チャンドラーの、マーロウを主人公にした小説は全部読み、人となりは完璧に分析、理解して撮影に臨んだ。「全てを救うヒーローではないし聖人でもない。犯罪者ともつるむし、元警察官だから警察ともつるむ。といっても、情にほだされたりせず、どんな相手にも左右されない。正義を導くことに懸命なキャラクターだ」


女性との関係から距離おいているのでは

マーロウのこんな一面も見いだしている。「時に、少し寂しそうに見えることもある。結婚しているという想像はできないし、女性といい関係をはぐくんでいる姿も感じない。もしかしたら、自分からそうしたことに距離を置いていると思ったりもした」
 
ニーソン版マーロウは歴代最高齢という。それだけに、年輪を重ねてきたからこそ見える哀愁や、人を見る目の深みもスクリーンに映し出す。


ニール・ジョーダン監督に全幅の信頼

監督のニール・ジョーダンとは「プランケット城への招待状」(88年)以来、「マイケル・コリンズ」(96年)など今回が4作目の出演となる。
 
「監督の進化を感じた。頭の中で15ものことが同時に進行している。しかも、一つ一つにきちんとしたビジョンがあって、役者に求めていることも明確。私への指示はみんな正解だった。想像できなかったキャラクターも引き出してくれた」と全幅の信頼を置いていた。
 
一例を挙げた。ジョーダン監督は、マーロウに第一次世界大戦でアイルランド軍として戦ったというバックグラウンドを加えている。「戦地で見た恐ろしいことがマーロウの中に刻まれている。そうしたことを引きずっているキャラクターになっている」。「40年来の仲間のニールと一緒にキャラクターを埋めていく作業は喜びそのものだった」と振り返った。
 

発する言葉をリアルに

「96時間」(2008年)以来、「MEMORYメモリー」「ブラックライト」(22年)などニーソンはアクションのイメージが強いが、「シンドラーのリスト」(93年)、「愛についてのキンゼイ・レポート」(04年)などシリアスドラマでも演技力は折り紙付き。人間味がごく自然ににじみ出る俳優だ。本人のうちから発するものなのだろうか。
 
「演技、特にスクリーンにおける良質な演技とは何かと聞かれたら、役者がセリフを言った時に信ぴょう性があるかどうかだと答える。演技の根本たる部分だと思う。アクションかシリアスなドラマかに関わらず、どんな作品でも発する言葉がリアルであることを心掛けている」
 
確かに俳優として最も重要なこと。「観客にとってはもちろん、自分でも聞いていて信じられる。この人がこう言っているんだと感じられるよういつも気をつけている。気をつけているのはそれだけなんだけど」と少し照れた感じで話した。
 
出演100作品目の節目になった。「僕らが演じるドラマはセリフに頼っているから、やはり最も大事なのは脚本と良い物語。最初から出来上がっていなくても、これから良質なものになりそうな脚本なら興味をひかれる。共演者や監督、スタッフも大事だが何よりも素材。それと、キャラクターがしっかり定義づけられていること」というスタンスは変わらない。


「グッドバイとは決して言わない」

キャリアで最も大事にしてきたことは「これが当たり前だと絶対思わないこと」と言葉によどみがない。「例えば、新しい作品に関われば、新しい脚本、新しいアプローチを毎回する。役者として初めてその言葉を言うわけで、謙虚でいることであり、(作品にも人にも)リスペクトの思いを持つことを大事にしている」。役者として、慣れや惰性、傲慢さとは反対の位置に身をおいている。
 
リーアムの話は映画への考え方、接し方から映画そのものへの思いに広がっていく。「僕は映画の仕事を心から愛していて、6週間とか2カ月とか世界中から人が集まってきて、一緒に1本の映画を家族のように作る作業が好きなんだ」。シンプルだが映画愛が素直に伝わってくる。「だから、撮影が終わった時に『グッドバイ』とは決して言わない。『今度また会おうね』と必ず言う。この仕事をしていれば、きっとどこかでまた会えるから。実際に再会することは多いんだよ」
 
「探偵マーロウ」は全国で公開中。

関連記事

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

この記事の写真を見る

  • 「探偵マーロウ」 リーアム・ニーソン=提供写真
さらに写真を見る(合計1枚)