「スオミの話をしよう」の三谷幸喜監督

「スオミの話をしよう」の三谷幸喜監督=藤井達也撮影

2024.9.11

長澤まさみ魅力爆発「スオミの話をしよう」でも三谷幸喜監督は「世界を目指さない」

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勝田友巳

勝田友巳

三谷幸喜監督の人気、日本だけではない。7月の韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭で特集が組まれ、「ギャラクシー街道」「記憶にございません!」「ステキな金縛り」の3作品が上映され、満席続出、マスタークラスでも大受け、終了後にはサインを求める長い列ができた。「ラヂオの時間」などが公開されてヒットし、舞台も翻訳上演されて韓国でもおなじみなのだ。韓国ばかりではない。ドイツ、ロシアなど世界各地で上演、上映され、映画はリメークまでされている。それでも当人は、「日本の観客に向けて作る」姿勢を崩さない。なんでこんなに受けるのか。


一番魅力的な長澤まさみを

学生時代に劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げしてから、笑いを追求。テレビドラマ、舞台、歌舞伎などの脚本を休むことなく手がけ、数年に1本、映画を作ってきた。9本目の映画「スオミの話をしよう」も、もちろんコメディーである。
 
大富豪の妻スオミが誘拐され、屋敷に彼女の4人の元夫が集まってくる。現夫も含め5人が語るスオミは別人のようにバラバラ。誘拐事件の真相と、スオミの本当の姿が、笑いの中に明らかになってゆく。

「一番魅力的な長澤まさみさんを見せる」と宣言した本作。以前から組みたかったという長澤の魅力を語る。「まず、画面にいるだけで〝映画〟になるビジュアルの素晴らしさ。それにお芝居が的確。真面目で研究熱心、脚本を読み込んでくるし、表現する技術も兼ね備えている。今回は、5人のスオミというより、1人のスオミの五つの面を演じてもらいました」



「スオミの話をしよう」©2024「スオミの話をしよう」製作委員会

セットの隅々まで使いまくり

そして「ワンシチュエーションの演劇的な映画」を目指したという。物語のほとんどは豪邸の居間で展開する。作り込んだ大きなセットを組み、俳優たちが隅々まで動き回り、セリフが飛び交う。夫役には、坂東彌十郎、松坂桃李、西島秀俊、小林隆、遠藤憲一と巧者をあて、撮影前に入念にリハーサルを重ねた。

とはいえ映画、劇場中継ではない。「セットはできるだけ動ける場所を作ってもらい、そこでどんな芝居ができるかを当て書き。演劇的にならないように、セットに住むぐらいの長い時間を過ごして、ダイナミックなカメラの動きや位置を考えました」。坂東彌十郎が演じる大富豪が、スイカを食べ、種を吐き出しながら広い居間を歩き回るのをカメラが追うワンカットの場面は、映画と舞台を融合した見せ場の一つ。終幕には「いつかは本格的に撮りたい」というミュージカル場面を用意した。「舞台チックな作品だから、最後にカーテンコールがほしい。長澤さんたちの歌と踊りを見ていたら、もったいなくなって1カットで演じてもらった」。華やかなエンディングとなった。


俳優の魅力を最大限に引き出したい

映画に進出して四半世紀以上、それでも「新人」の心持ちとか。「映画は何年かに1回のご褒美、作らせていただくっていう思いです。自分がどんな監督かという手探りがずっと続いていて、なんとなく見えてきたのは、僕は映像監督ではないということ。カット割りやアングルの面白さなら上手な人は山ほどいる。僕に優れた面がもしあるとしたら、舞台の人間だから、俳優さんとの距離感の近さじゃないか。本人も気づいていない魅力を引き出すこと。それを最大限に生かす演出をしたい」。「スオミ」はまさにそんな映画となった。

タイトルクレジットは必ず「脚本、監督 三谷幸喜」の順番。まず脚本家、なのである。その笑いは映像で見せるドタバタ喜劇というより、掛け合いの妙や仕掛けで笑わせるシチュエーションコメディー。「脚本として笑える喜劇を書きたい。ストーリーや構成で面白いものにして、俳優さんの動きがプラスアルファになる。僕自身がそういう作品が好きだからでしょう」。1940、50年代のフランク・キャプラやビリー・ワイルダー、エルンスト・ルビッチといった監督への敬意と愛着を公言する。「影響もたくさん受けて、自分なりの再生産といった部分もあります」


日本は笑いの感性が優れている

三谷作品は世界各地で人気だ。しかし、海外を意識することはないという。「僕が作ってるのは人間の関係性を元にしたコメディーだから、万国に通じるという確信はあるんです。うまく作れば世界中の人が喜んでくれる。だからって、世界に向けて、という気持ちはあんまりない。自分の作品をアメリカで公開するとか。ハリウッドで脚本を書いたり映画を監督したりとは、まったく思ってない」

というのも「今のアメリカのコメディーは質が高いとは感じないし、日本の方が笑いに対して感度が優れていると思うから」。「日本は落語から始まって、笑いに貪欲だと思う。例えば小劇場の芝居も、笑いにこだわる必要はないのに欠かせないものになっている。テレビを見ても、雰囲気だけの芸人さんは長続きしない。本当に面白い人が残っていく。見てる人はちゃんと見てる、目が肥えていると感じます。日本人をターゲットに、日本人が笑えるものを作ることこそ、自分のやるべきことだという気がすごくしています」

理想は「始まってすぐに笑いが起こり、上映中ずっと爆笑が続く作品」という。2027年までスケジュールはいっぱい、「アイデアのストックはある」というから、そんな映画が見られる日も、遠くないかもしれない。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

藤井達也

ふじい・たつや 毎日新聞写真映像報道部

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